「夢の中へ」 第五話
小半刻(30分ほど)もして眠った藤子を抱えて通りまで戻ってきた時、藤次郎は探していたかのようにまどかを見つけると駆け寄り
「藤子を貸せ」
と言って抱きかかえると、
「まどか、よく知らないが村長(むらおさ)様がお前を探しておられる。藤子は俺が預かるから元締め様の釜に行け」
「どのようなご用件なのでございましょうか?聴いてはいませんの?」
「急いでおられるご様子だったから、とりあえず参れ!」
「はい・・・藤子は今、乳をやりましたのでしばらくは眠っているかと思います」
「うん、解ったから、任せておけ」
まどかは藤子と離れることが気になってはいたが、窯元の方へ小走りに駆け寄っていった。
「遅くなりました。まどかです」
「おお、そなた待っておったぞ。赤子は預けてきたか?」
「はい、藤次郎様に預けてきました」
「それは良かった。早速じゃが・・・明智様が先ほどそなたを見て、どこの者かと尋ねられたのじゃ。この土地の者ではないと返事を申し上げたら、話してみたいと仰せられて、わしの離れで待っておられる。藤次郎には申し合わせておくゆえ参られよ」
「明智様が私に御用と仰せられますか?」
「解らぬ・・・赤子が居るそなたゆえ、ご無体なことはなされまい。お断りは出来ぬゆえ聞き入れなされ」
「殿方様のところへ私一人で参るのですか?」
「御付の人が傍にはおられるじゃろう。ご心配されるな・・・信長様のご命令じゃないからのう」
「心得ました」
作品名:「夢の中へ」 第五話 作家名:てっしゅう