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挽歌 「こわれはじめ」

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「いえいえ、こちらの要件は単純ですよ。昼間、あなたの事務所に一人の男が現れたでしょう」
 向こうの言葉を話半分で聞きながら、ライターで煙草に火を付ける。
「それが?」
「彼の依頼から手を引いてもらいたい。あれは、君たちでどうこうできる問題ではない」
 大介は男の方を見て、タッパーの入った袋を優しく地面へと置く。
「金づる逃すほど愚かじゃないんだけどな」
「では、手を引く意思は無いと?」
「まあ、そう言うな。ちょっとついて来いよ」
 そう言うと、袋を左手に持って大介は歩き始めた。
「き、貴様」
「黙ってついて来な」

 住宅街からやや離れた、夜の工場地帯。
 やや薄汚れている工場へと、大介はやってきた。
 真っ暗な工場に明かりをつけると、所々で電気の点かない蛍光灯が見受けられた。
 後を追ってきた、怪しい集団が全員中に入ったところで、大介は手荷物を下ろし彼らの方を向く。
「ここなら安心して話しあえるな」
「こんなところまで連れてきて、いい回答でもしてくれると?」
「ああ、そうだな。答えは――」
 そう大介が言った時、工場の電気が消えた。
 暗闇の中で、大介は咥えていた煙草を吐きだす。
 高熱の赤い光が軌道を描き、地面へと落ちて行く。
 光が地面に着き、コンクリートの焦げる音が響いた――その時。
「がぁっ!」
 一発の銃声が響き、集団の一人が地に伏す。
「NOだ」
 銃声の主は、大介。
「き、貴様!」
 反射的に銃を取り出し、先ほどまで大介が居たであろう場所に銃撃を始める。
 マズルファイアがきらきらと輝く暗闇の工場内は、まるで先ほどまで人っ子一人いなかった静かな所だとは、到底思えない。
「うわぁっ!」
 暗闇の中で一人、また一人と彼らは射殺されていく。
「くそっ、どういうことだ!」
 集団のリーダー格が、物陰からがなる。
「交渉決裂したからって、そうカッカすることはないだろう?」
「き、貴様……どの口がそんなことを言う!」
「飯の食いぶち逃すわけねぇだろ、それにあんたらからは怪しい匂いしかしなかった。硝煙のにおいと、汚れたドブにぶちまけられた金の匂いがな」
「くそおおおっ!」
 暗闇に目が慣れてきたリーダー格は、物陰から飛び出して声を頼りに銃撃をする。
 だが、弾はことごとく行き場を無くしていくのみだ。
「ちくしょう、どこだ、どこにいる!」
 銃声が鳴り響き、叫ぶリーダー格の右手から銃がはじかれる。
「頭狙ったつもりだったんだけどな……やっぱ鈍ってるか?」
「ひ、ひっ」
「で、あんた誰?」
「い、言えるわけがないだろう」
 躊躇いなく引き金を引き、リーダー格の男の足元へと命中する。
「これはお願いじゃない。命令だ。もう一度だけ聞くぞ? お前は誰で、誰の目的で俺の仕事を止めようとするんだ。答えないと、今度は頭ぶっ飛ばす」
 さきほど事務所で悪態をついていた男とは思えないほどの、鋭い目つき。
 男はじりじりと後退しながら、口を開く。
「お、小川会だ! お前が依頼してきた奴は、小川会が横やりを入れて操業停止にさせた工場を操業再開する為に、あらゆる手段で工場を守ろうとしやがったんだ!」
「小川会……」
「あの男は小川会と対立する組の男なんだっ、だから……だからあんたらに依頼して、なんとしても工場を守ろうとしたんだっ……」
「――お前、あの男の右腕だろ?」
 ぴくり、とリーダー格の男が反応する。
「黙ってりゃあ、聞いても無いことをぺらぺらしゃべりやがる。俺は確かに依頼は受けたが、あの男が小川会に命を狙われている――なんて、聞いてないぜ?」
「あっ」
「大方お前、金に目がくらんで小川会に寝返ったんじゃないか? その男も可哀想だな、信じていた右腕に足元をすくわれちまうなんて」
 大介の、男へ向ける視線が冷たくなる。
「爺、そういうことだってよ」
「おう、小物はこれだから見ていて楽しくなるな。だからこの仕事はやめられん」
 工場の電気が着く。
 男は辺りを見渡すが――味方は誰一人として、息をしていない。
「あ、あひぃぃいっ」
 上の方から、京太郎が階段を使って降りてくる。
 先ほど、電気を切ったのはご想像の通り――彼だ。
「にしても大介、お前があそこで頭に命中させていたらここまでは聞けなかったぞ。ふぁいんぷれいという奴だ」
「うるせぇ、腕が鈍っただけだ」
「あ、あ、あ……」
 男は我を忘れ、出口へと駆ける。
「おや、どこへ行こうと言うんだ?」
 京太郎の銃が、男の足を撃ち抜く。
「がああああ!」
「お前さん、一つ勘違いをしているよ」
 京太郎の方を向き、顔をくずしながらガタガタと震える男に向けて京太郎は言った。
「味方を売った人間は、いつかきっと因果応報という奴で死んでいくのさ」
「ひいいっ、た、助けてくれぇぇぇぇ!」
 それが、彼の最期の言葉。
 一発の銃声が工場に鳴り響いた後、彼は動かぬ肉塊へと成り果てた。

「爺、最初から俺をつけてただろ」
 時間は午前零時を少し回った頃。
 夜の屋台で、二人は酒を飲んでいた。
「昼間の客があからさまに怪しかったんだ、そりゃあ儂だって勘繰るわ」
「ま、結果的にあんたのおかげで情報を聞き出せたんだ。感謝はしてやる。あ、おっさん。この老いぼれにもう一杯酒を出してやってくれ」
「誰がおいぼれだ誰が」
 そう言いながらも、店主から手渡された酒を美味しそうに京太郎は飲んでいる。
「依頼日は来週だったか、爺」
「うむ、あの小杉という男はそう言っておった」
「工場解体の阻止、なんてでけえ重機持って来られたらお手上げだと思うがな」
「それについてだが、小川会という単語から色々調べてみた結果がここにある。読んでみるか?」
「ん? ああ」
 京太郎の鞄から、分厚いファイルが取り出される。
 それを受け取り、ぱらぱらと目を通す。
「京じいさんも、大ちゃんも、いつもながら仕事は真面目だねえ」
 屋台の店主が、新しいつまみと酒を置きながら二人に話しかける。
「何、儂はすでに隠遁済みだ――楽しいからやってるだけだよ、大志ちゃん」
 大志と呼ばれた店主が、苦笑いを浮かべながらつまみを作りに戻って行く。
「なるほどな、小川会は工場による収入がおぼつかないのか」
「やっこさんの組の工場の方が、売上や信頼――全てにおいて上だそうだ。ま、あの男からしてヤの付く連中にしてはまともだと儂は踏んでいたがな」
 つまみに出されたあぶり烏賊を噛みちぎり、大介が酒を飲み干す。
「とりあえず、いつものように過ごしてればいいか」
「あの子も最近は勘繰り深くなってきておる、尻尾を掴まれんようにしたいものだな」
「――華憐は間違いなくあんたの孫だよ。いずれはこの世界へ入って行ってしまうだろう」 
 にやりと笑い、京太郎も酒を飲み干す。
「くっくっくっ、孫の人生は孫自身が決めるもの。あれがこの世界へ入り、死んだとしても――それもまた、華憐自身からすれば悔いのない人生なんだろうよ」
「それもそうだ」

「じゃあ、またね」
 高校の正門から、華憐が姿をあらわす。
 授業が終わり、今日も彼らの事務所へと足を運ぼうとしていた所だった。
 勇み足で移動する華憐は、曲がり角から歩いてくる男性に気付くことなく歩んでいた。
「きゃっ!」