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ヴィンセント
ヴィンセント
novelistID. 41447
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あの夏、キミがいた。

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 学校のことや友達のことを楽しげに語る彼女と肩を並べて歩く。すれ違う人たちが皆彼女のことを見ているような気がして、そして隣に居るなんだか不釣合いな、髪を染めた不良少年とを見比べてせせら笑っているような気がして落ち着かない僕は、せっかくの彼女の澄んだ声の半分も耳に届かず、無愛想な相槌しか打てない。
 それでも気にせずに次々と、他愛の無い話題をうれしそうに語る彼女、時々そんな彼女の表情を覗き見たい衝動に駆られこっそりと横目で覗き見るその度に、その華やいだ笑顔は真っ直ぐに僕を見つめてきて、そして目が合うたびにドキリ。と僕の胃の辺りが軽くひっくり返り、そしてあわてて又、顔を正面に戻す。
 やがて神社へと近づくにつれて、次第に大きく響き渡る賑やかな祭囃子と太鼓の音、多くの人々のざわめきと笑い声。
 薄い群青色に暮れた空にぼんやりと夏祭りの明かりが見え始めた頃、相変わらず僕の横で軽やかな下駄の音を響かせつつ歩いていた彼女がふと、それまでずーっと掴んでいた僕のシャツの裾を離し、立ち止まる。

「ん?どうしたん?」

「あのね・・・・・・」

 ぶら下げていたキンチャク袋を弄りながら俯いた彼女が、何かを言いたそうに僕の正面に立ち、ポケットに突っ込んだままの僕の手のあたりを見つめる。

―これは、きっと彼女が言う前に僕が言わなきゃいけない言葉だ、多分。―

「手ぇ、つなごっ!!」

 妙に気が急いた僕は、焦って幼稚園児みたいなセリフを吐くと同時に、気が付くと彼女の手をキンチャク袋ごと握っていた。

「あ!も、もうそろそろA達も来ているはずだしそ、その、オレ達の仲良くみせないとああアレだしでもい、イヤならいいしああ、うん。」

「ううん、うれしい。」

 僕の言葉を最後まで待たず、首を左右に振る彼女の、ふわりと揺れた黒髪の淡い香りが僕の鼻腔をくすぐる。

「さ、いこ。」

キンチャク袋を持ち替えて再び僕の横に並んだ彼女がしっかりと僕の手を握る。

「ちょっと待って。」

 僕は一度、しっかりとジーンズで手のひらを拭い彼女の手を握り返す。柔らかくてほっそりとした指が僕の手に絡みついて、さっきよりも一層近くに寄り添った形になった僕らはきっともう、

「どこから見ても立派なカップル、だね!」

―うん、もしそう見えているならそれは、僕にとってずーっと夢見てきた光景なんだよ、もっともキミはそんな風には、夢にも思わないかもしれないけど―