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ヴィンセント
ヴィンセント
novelistID. 41447
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あの夏、キミがいた。

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「もしもし、あ、待ってたんだよ電話~、何時に迎えに来てくれるの?」

若干緊張しつつ携帯をポケットから取り出しナンバー1

-数えるほどしか掛けたことがないくせに、真っ先に短縮1番に登録した彼女の電話番号-

を押す、と、呼び出し音が鳴る間もないほどにあっけなく、耳に当てた小さなスピーカーから流れ出る彼女の、少し弾んだような声。

「うん、6時頃に行くよ。A達とは6時半に神社で待ち合わせたから。」

電話の向こうで、静かに僕の返答を待つ彼女の周囲がなんだかガチャガチャと騒がしいのが気にはなったがともかく、僕はシミュレーションどおりにそこまでをさりげなく、あくまでスマートに伝える。

「うん、わかった。じゃあ角のタバコ屋さんの前で待ってるね。」

「え?あ、ああ、家の前まで迎えに-」

「いいっていいって、あの坂登るの大変でしょ?それにうちの親がキミの金髪頭見たら何言い出すかわかんないし。それより実はさ、今日は私・・・・・・なんと!浴衣着せてもらうんだよ、ゆ・か・た。」

 しっかりと彼女の家まで迎えに行き、ちゃんと両親に挨拶するところまで想定していた僕は若干の計画の狂いに不安を感じつつも、でも彼女の浴衣姿を想像しただけでちっぽけな心配は忘却の彼方へと吹っ飛ぶ。

「へ、へ~、ちゃんと似合っていればいいけどな」

「なによー、キレイすぎる私にびっくりするなよ~、じゃ、6時にね!」

あ、ああ。と返事をするまもなくプツッと切れる電話。

 似合わないはずが無いじゃないか、いつもの、ほっそりとしなやかな彼女の立ち姿に艶やかな彩りの浴衣を重ね見た僕は思わずひとりごちる。

「なんかね!ニヤニヤしてからこの子は気持の悪かっ!はよご飯食べてお祭りいってきな!まったく派手なシャツ着よって。女の子誘ったんなら、失礼の無いようにするんじゃよ!」

 玄関先からドスドスと、首に巻いたタオルで汗を拭きながら歩いてきた母が、僕の頭をピシャン。と叩いて台所へ消えていった。

「分かったよ!!っつか、違うよ!Aと行くんだよオレは!」

 やっぱり母には全部見透かされている。照れ隠しに思わず怒鳴った僕のその声に、母はいつもの豪快な笑い声で返事をしてきた。