あの夏、キミがいた。
ストン。と僕の背中から滑り降りた彼女
―すっかり涙は乾いて、いつもの凛とした表情に戻っている―
「メールするし、手紙も書くよ。だからキミも書いてね。」
「ああ、毎日メールするし手紙も絶対書くよ!あ、これ履いて帰りな。」
僕はこの日のために新調したビーチサンダルを脱ぎ、彼女の前に並べた。
「え?でも、借りても・・・・・・返せないよ。」
「いいっていいって、安物だから捨ててもいいし。そのかわりお前の下駄、オレが直しておくから!いつか又お前とお祭りに行く日ま・・・・・・あれ?」
そこまで言いかけた僕の頬を、唐突に涙が流れ出す。
こんな経験は初めてだった。自らの意思とは関係なく、イヤ、まったく僕の意思そのままに涙がとめど無く溢れ、彼女の水色の浴衣が滲んで見えなくなる。
「じゃっ!!下駄は預かる!向こう行っても元気でな!」
僕は精一杯の空元気でそう言い放ち、彼女に背を向けると坂を転げるように裸足で駆け出す。
「さよならっ!ありがとう!!」
僕の背後から、この上なく美しい声で、この上なく切ない言葉が投げつけられ、僕の長くて短い夏が終わりを告げた。
作品名:あの夏、キミがいた。 作家名:ヴィンセント