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ヴィンセント
ヴィンセント
novelistID. 41447
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あの夏、キミがいた。

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「何ボーっとしとるんか、この子は!!」

 懐かしい縁側でぼんやりと彼女のことを思い出しながら風鈴を眺めていた僕の頭を、相変わらず首から掛けたタオルで汗をふきつつ歩いてきた母が一発、パシン!!と叩く。

「いてーな!!なんだよ、ったく。」

「ボーっとしとるんじゃないよ、ほれ、着付けできたわ。やっぱ女の子はええのう、うちも気の利かないコイツじゃなくって、女の子が良かったのう。」

 そう言いながら振り返る母の視線の先、座敷の襖がすーっと開き恥ずかしそうに出て来る、昔と変わらない水色の浴衣と黄色い帯がとても良く似合う、あの頃より少し髪は伸びているけれど、あの頃とちっとも変わっていない、美しい立ち姿の彼女。

「どう?似合うかな?」

「ああ、思ったよりも似合うよ♪」

「ほんと、キミは相変わらず素直じゃな・・・・・・あ、何?」

 僕は、呆れたように浴衣の腕を組みつつ笑顔で僕を見つめる彼女の手を取ると、玄関先に走り、用意していたモノを彼女に見せる。

「あ・・・・・・これって私の、あの時の。」

「うん、直しておいたよ、約束しただろ?いつか又一緒にって。」

 しっかりと手を繋ぎながら、不器用に結ばれた赤い鼻緒の下駄を見つめて笑う僕たちを、母が不思議そうな顔で眺め、やがて又汗を拭きながら台所へと消えていった・・・・・・

                 あの夏、キミがそこに居た。