あの夏、キミがいた。
「あっ、ありがと・・・・・・え?」
思いがけず触れた彼女自身の温もりと確かな手応え。今にもそこから消えてなくなりそうな気がしていた彼女は、でもまだそこに居る。僕は気が付くと、彼女を夢中で抱きしめていた。
一瞬戸惑った様子の彼女の手がやがて、ぎこちなく僕の背中にまわる。
「謝らなくていいよ、オレの方こそ、ゴメン。」
「なんでキミが謝るの?なんで・・・・・・グスッ・・・・・・」
切れかかり点滅を繰り返す街灯が僕たちの影をアスファルトに投げつけては、消し去る。
「行って欲しくない、寂しいよオレ。」
僕は夢中で抱きしめていた彼女の肩をそっと離し、初めて自分から彼女に向き合った。
涙で濡れたままの大きな瞳が、それでも彼女らしく真っ直ぐに僕を見つめる。
「オレ、お前が・・・・・・」
そのときだった。
今にも途切れそうな、不確かな白熱灯の光だけで互いの存在を確かめていた僕たちの周囲が、パァーっと明るい金色の光に包まれる。
「すき・・・・・!!」
ヒュルルル、ドーン!!いきなり夜空に舞い上がる花火。
ことのほか近い場所から打ち上げられたらしい花火はまるで、僕たち二人を夜空ごと包み込むかのように花開き、一際美しい残像を残して散っていく。
鼻先に触れた彼女の黒髪の香りと抱きしめた彼女自身の確かな存在が僕を、少し前の最強の僕に戻してくれたおかげで言えた渾身の一言はしかし、花火の音にかき消され―
「・・・・・・ありがとう、嬉しいよ、私も。」
―てはいなかった。
そして、ぼくらは再び薄暗くなった街灯の下で、初めてのキスをしたんだ。
一生忘れられない、キスを。
作品名:あの夏、キミがいた。 作家名:ヴィンセント