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ヴィンセント
ヴィンセント
novelistID. 41447
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あの夏、キミがいた。

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「もう、遅いぞキミ。はい、手貸して!」

一気に絶望へと突き進む僕の前に、いきなり差し出される手。

 未だ溢れかえる人ごみの中で、まるで彼女の居るそこだけが異空間のように不思議と静まりかえって・・・・・・絶望の淵に居た僕は、浴衣の袖から差し伸ばされた白くしなやかな指先に救われ、生き返る。

「あ、ああ、ご、ゴメン。」

「子供じゃないんだから、はぐれないでよね。」

 僕はそっと彼女の手を握りながら頭を掻く。そんな僕を見つめる彼女の瞳がとてつもなく優しくて、でもどこか悲し気なのが少し気になった。

 それから僕たちは押し寄せる人波を避けつつ、結局少し遠回りとなる道を選んでようやくタバコ屋の角までたどりつき、一息ついた。

「すごかったね~、人多くてビックリだよ、みんな花火楽しみなんだね~やっぱり。でも、なんか、ゴメンね。」

 浴衣の襟あたりを軽く手で扇ぐ素振りをしながら彼女が申し訳なさそうに呟く。

「いいって、気にするなよ、それより足、痛くないか?」

 慣れない下駄なのに、随分距離を歩かせてしまった彼女を気遣う僕をいつものように真っ直ぐ見つめる彼女の瞳が唐突に、

「うん・・・・・・ちょっとね、でも平気だよ♪ありがと、やっぱ優しいね・・・・・・あのね。」

 艶やかに潤みを帯び、そしてポロポロと溢れ出す涙。
やがて、瞳から零れるそれを隠すように俯いてしまったままの彼女の口から、絶対に聞きたくなかった言葉の数々が堰を切ったように溢れ出す。