あの夏、キミがいた。
「あ、もうすぐ花火が始まるね・・・・・・そっか、ごめんね、もう帰らなくちゃ。」
たったいまお互いの気持ちを確かめたい、そんな僕の焦り高鳴る気持ちを遮るようにいきなり!彼女の口を突いて出る、今この瞬間には絶対信じたくないセリフ。
「え?そ、そうなのか・・・・・・」
つい5秒前までは、ドラマや映画の主人公並みにキレのある最強の告白ができそうな予感がしていた僕だったのに、彼女がそう呟いたその瞬間、もう既にさっきまでの自分はそこに居なかった。
「ゴメン、今日は早く帰るって・・・・・・お母さんと約束したから。」
―なんでだよ!なんで今日なんだよ!!花火一緒に見て、そして又さっきまでと同じように手を繋いで帰るんじゃなかったのかよ―
なんて、言えるはずも無く
「う、うん、気にするなって、な、あいつらウマくいったんだし。うん、送ってくよ。」
少し俯いたままコクン。とうなずいて無言で振り返る彼女。
もうすぐ始まる打ち上げ花火を少しでも近くで見物したい人たちの流れ。とは反対方向へ向かってゆっくりと歩き出す彼女の後ろを、あわてて追いかける僕。
人ごみの中で小さく揺れる鮮やかな水色の浴衣を見失わぬよう必死で人ごみをかき分けて歩く僕は、何故だかちっとも彼女に追いつかないような気がして、そしてもがけばもがくほど彼女との距離が開いていく。
―くそ!!さっきまで浮かれてた自分がバカみたいだ!そうだよ、きっと彼女は僕のことなんかなんとも思ってなかった。今日は親友のため、我慢して僕と―
作品名:あの夏、キミがいた。 作家名:ヴィンセント