ちぎれた世界にて
石井たちの番になり、彼らはボートに乗りこんだ。
「じゃあ、後は頼む」
「ハイ」
栗林が石井たちのボートを操縦することになった。
「ちゃんとシートベルトを」
栗林は石井たちに、シートベルトを締めるようにと言おうとしたが、彼らは既にシートベルトを締めていた。それを見ると、すぐに発射機を操作しているスタッフに指示を出した。そして、
ボーン!!!
大砲のような音とともに、石井たちのボートは発射機から打ち出された。下に船が見えたかと思うと、急降下して海に着水した。水しぶきが石井たちに降り注ぐ。
「遊園地のウォータースライダーみたいだったな!!!」
藤林は楽しそうな口調でそう言ったが、石井と宮武はずぶぬれになったことにやれやれとし、
「こ…こわかったよ」
高倉は肩を震わせていた……。
「こんなことぐらいで怖がるなよ」
栗林が意味ありげなセリフを呟いたが、石井たちは濡れた手荷物をハンカチで拭き取っていたので、気づかなかった……。
120人の旅行者たちを乗せた30隻のボートは、島に向かって進んでいく。赤道に近いためか、太陽の日差しが強かった。ただ、旅行者たちが島に着くころには、その太陽は大きな雲に隠れてしまっていた……。
そのころ、島の研究所では、博士が準備を進めていた。やらなければならないことは多かったが、幸か不幸か船の到着が遅れたため、間に合わせることができた。
『小笠原諸島は、非常に強い台風9号の暴風域に入ります』
ラジオが台風情報を告げていた。この島は小笠原諸島の一つのため、台風の直撃をもろに喰らうことになるようだ。
「この世紀の大実験には、お似合いの天気さ」
博士が、あの地下の広い空間の大部屋で準備作業をしながら呟いた……。
「博士、うまくいくんだろうな?」
そのとき、覆面兵士を連れたスーツ男が部屋に入ってきた。博士はため息をついた。
「100人以上も生贄がいるんだ。開くに決まっているさ」
博士はそう言って、スーツ男を納得させたた。だが、博士自身は、これは賭けであると思っていた……。
「私もここで見届けることにするよ」
スーツ男はそう言うと、壁によりかかった。
「ああ、そうかい」
博士は、スーツ男を気にせずに、また準備作業を始めた。