ちぎれた世界にて
翌日の昼前、石井たちの船は目的地の島に到着した。ただ、到着したと言っても、桟橋や埠頭に接岸したわけではなく、島から少しだけ離れた位置で船は停止していた。島は、海面に突き出た岩によって囲まれており、大きい船で近づくことができないのだ。
「どうやって上陸するんだろう?」
石井たちのその疑問は、頭上を飛んでいく物体によって解かれることとなった。
その物体とは小型のボートのことで、数人乗りのボートには、1グループ4人とボボートを操縦するスタッフが1人乗っていた。飛んでいったボートは、岩を飛び越えて、海面に着水した。船首のほうにある発射機が、人が乗っているボートに発射していた。どうやら、こうやって岩を飛び越えて島へ向かうようだ。島を囲む岩に一番近いところにも、同じ発射機があり、あれは帰り用のようだ。
「あの機械はこのための物だったのか!」
石井が、乗船したときにあった発射台のような機械の正体を知ったようだ。
「楽しそうじゃん♪」
藤林は楽しみにしている口調でそう言い、高倉は怖がっていた……。
石井たちは、ボートに乗るための行列に並ぶ。そのときのスタッフの案内のせいで、石井たちのグループのすぐ後ろに、例のあのグループが並ぶことになってしまった。暇潰しをしたいのか、宮武が藤林に、例のあのグループにリベンジするよう促す……。しかし、藤林はコリゴリだと嫌がった……。
「犬はダメだってば!!!」
そのとき、行列の前のほうからスタッフが注意する大声が聞こえてきた……。家族連れのグループが犬を島へ連れて行こうとしてトラブルになったようだ。犬は雑種の子犬です、それを抱き抱えている6歳ぐらいの女の子が飼い主のようだ。
「イテッ!!!」
そのあまり頭がよくなさそうなスタッフが、女の子から子犬を取り上げようとしたとき、子犬がスタッフの指に噛みついた。そして、女の子から逃げ出し、行列の後ろのほうへと走り始めた。
「誰か捕まえて!!!」
女の子が半泣きで叫ぶ。
「えい!」
なんと、高倉が走って逃げる子犬を捕まえた。犬はもがいたが、高倉になでられておとなしくなった。女の子が子犬を受け取ろうと、高倉の元へと走り始めたそのとき、
「この子犬はどうしたんだ?」
栗林がどこからか現れ、石井たちのところへとやって来て言った。
「この女の子が子犬をいっしょに島へ連れていきたがっているんです」
「認めてあげてください」
石井と高倉がそう言うと、
「わかったわかった! おい、許可するぞ!」
栗林が、女の子が子犬を島へ連れて行くことを許可してくれた。昨夜の手柄のおかげだろう。当然だが、女の子は喜んだ。注意したスタッフは、噛まれ損であった……。
子犬を抱えた女の子たちの家族を乗せたボートは、無事に海に着水した。