ちぎれた世界にて
ドカーーーン!!!
そのとき、爆発音が船中や近くの海域に響き渡った……。船が揺れ、高倉が尻もちをついた。乗客の多くが悲鳴をあげる。
「なんだ!?」
石井と藤林は手すりから身を少しのりだして、船首から船尾を見た。宮武は倒れた高倉を立ち上がらせていた。
「後ろのほうで煙が上がってるぞ!」
藤林が指さした方向に、夜闇からでも見える黒煙が見えた。その煙は、船尾付近から立ち昇っており、船員たちが対応に当たっていた。
「その男を捕まえてくれ!!!」
2人の船の警備員が、清掃員の男を追いかけていた。その男はナイフを持っており、ナイフを振り回して、乗客をどけて走っていた。
しかし、反対側からも警備員がやって来てしまい、男はただ逃げるのをあきらめた様子で、近くにいた高倉を人質にしようとした。
「キャーーー!!!」
当然、高倉は悲鳴を上げ、自分の腕をつかんだ男の手を振り払おうとした。しかし、男の力は強く、今にも喉元にナイフをつきつけられてしまいそうだ……。
「離れなさいよ!!!」
宮武が男に顔面パンチを喰らわせた……。突然のパンチをもろに顔面に喰らった男は、痛そうに顔を押さえながら、デッキ上に仰向けに倒れた。そして、石井と藤林が倒れた男を取り押さえた。男のナイフは、デッキの木製の床に突き刺さっている。
「御協力に感謝しますよ」
旅行者たちの引率者である栗林が、男を取り押さえた石井たちに礼を言った。あの男は警備員に連行されていった……。
「あの煙とさっきの男は関係あるんですか?」
石井の煙を指さしながらの問いかけに、
「……いや、あの、あの煙は、清掃員であるあの男のミスのせいでさ。沈没したり、船が止まるほどの事故じゃないから安心してね」
栗林がしどろもどろに答えた……。石井たちは不審に思ったが、眠気があったので、それ以上問いかけるのをやめ、部屋に戻っていった。
爆発が起きてからそこまでの一部始終を、例のあのグループは静かにただ見ていた……。
「博士、申しわけありません!!! 船でちょっとしたアクシデントが起きまして、少しだけ到着が遅れます」
栗林は自室で、電話の相手である博士にそう言っていた。先ほどの爆発のための修理で、船のスピードを緩める必要があるからだ。
「中国の工作員によるテロが、ちょっとしたアクシデントなのかね?」
博士はイライラした様子でそう言った。ただ栗林も、情報がいつのまにか、既に博士まで伝えてられていることにイラッとしていた。
「大切な実験が中断するようなことは無いように頼むよ」
「念のため、何人かの警備員を船に残して、他の工作員を見つけさせます」
「他の工作員は、君たち警備陣にいるんじゃないのか?」
「顔見知りだけで構成しているので大丈夫です!」
栗林は自信満々にそう言った。
「頼むよ」
そこで、栗林と博士の電話は終わり、栗林は工作員の乗船を見逃してしまったことを悔いていた。