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ちぎれた世界にて

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『みなさん、船長の七島です! 今回は、『鬼界ヶ丸』に乗船していただき、ありがとうございます!』

 そこへちょうどタイミングよく、船内放送が流れてくれた。船長による挨拶だった。
『それでは、引率主任の栗林さんによる御案内があります』
引率主任の栗林という男の声は、船に乗る前に名前を呼んでいた男(2ページ目のスーツ男ではない)の声だった。
『栗林です。この旅行に参加していただき、ありがとうございます。日程などに変更はございませんので、お手持ちのパンフレットをよく御確認ください。では、良い御旅行を』
栗林はどこか慣れていない口調でそう言うと、船長にマイクを戻した。船長は、この客船にあるレストランなどの施設の説明をした。船長の誇らしげな説明から、この船は本当に立派な船だということがよくわかった。
「2つもプールがあるんだ♪」
高倉が少し嬉しそうに言う。彼女たちの高校には、プールが無いのだ。
「昼飯まで時間があるし、泳ごうぜ?」
馬鹿にされたことなど忘れた様子の藤林が誘う。旅行トランクから海パンを引っぱり出している。
「おう」
「私も」
「アンタ、水着を見たいだけなんじゃないの?」
石井と宮武と高倉は誘いに乗り、藤林とともにプールへ向かった。



 そのころ、引率主任である栗林は、自分の客室で、どこかと携帯電話で話をしていた。
「予定通りですよ、博士」
『ついさっき入った情報なんだが、中国の諜報機関の人間が、その船に乗りこんだらしい』
「なんですって?」
『サイバー攻撃で情報が漏れたのだ。それで、さっそく、我々の計画を潰しにきたのだろう』
「……クソッタレどもめ!」
『実績を上げたがっているだろうから、派手に仕掛けてくると思うが、大丈夫なんだろうな?』
「なに、すぐに探し出してきますよ!」
『大切な生贄が乗っているのだから、よろしく頼むぞ』
「了解です!」
栗林は威勢よくそう言うと、真剣な目つきで、旅行客リストと船員リストの確認を始めた……。



 石井たちはプールにいた。この客船には、デッキと室内に1つずつプールがあり、彼らはデッキのほうのプールの中にいた。真夏の強烈な日差しが降り注ぎ、海から届く潮風は心地良かった。

「……これじゃ、泳げないじゃない!」

 プールの真ん中で宮武が言う……。デッキのプールは芋洗い状態で、泳ぐことなどできなかった……。石井たちは、プールの真ん中でほとんど身動きを取れない有り様だ。
「まあ、おまえと高倉の水着姿を見れるんだから、オレは満足さ!」
藤林は元気よくそう言ったが、次の瞬間、彼は宮武に殴られて撃沈した……。
「日焼けしてくる!」
宮武は怒りながらそう言うと、人を乱暴にかけわけ、プールから出ていった。石井と高倉は、藤林を引き揚げながら、宮武を見送る。

作品名:ちぎれた世界にて 作家名:やまさん