ちぎれた世界にて
石井たちは階段を昇り、客船のデッキに出た。だが、階段を昇ったところで、先頭から2番目にいた石井が、突然立ち止まる。
「なに立ち止まってるのよ!?」
石井の背中にぶつかりそうになった宮武が文句を言う。
「あっ、悪い。あそこの大砲みたいなのが気になって」
石井が指さした船尾のほうを、他の3人も見た。
船尾のデッキに、大砲と発射台を合体させたような大きな装置があった。装置の発射台は、海に向かって斜め上を向いており、その装置のすぐ横には、ブルーシートで覆われている何隻もの小型ボートが積んである。
「なんだろな?」
「アトラクションかなにかだろ」
石井の問いかけに、藤林はいい加減に答えた……。どうやら、早く部屋に行きたいようだ。
「オイ! 早く進めよ!」
最後尾の高倉の後ろで、次のグループの男が怒った口調で言った。暑さにイライラしているようだ。男のグループは、その男性と女性1人は日本人だったが、その他の2人は外国人の白人男性だった……。
「すみません」
高倉が振り向いて謝ると、その男は気まずそうに、
「いや、君のせいじゃなくて、前の男たちのせいだよ」
そう言い、藤林と石井を睨んだ。宮武が男を睨んだが、男は無視した。
「ほら、早く行こうぜ」
藤林は男の視線にビビった様子で、船内に駆け込んでいった。宮武は呆れた表情で、藤林を見送ると、
「アタシたちも行くわよ」
そう言って、石井の背中を押した。
「ああ」
石井は歩き出し、その後を宮武と高倉が追う。
男とそのグループは、黙って石井たちをを見届けていたが、今度は彼らが、後ろのグループに「早く進め」と怒られたのだった……。ただ、その男のグループが怒ってきたグループを睨むと、そのグループは黙ってしまった……。
「情けないわね!!!」
石井たちの客室で、宮武が藤林に呆れた口調で言う。彼女は、藤林がビビったことを非難しているようだ。
「だってよ。まるで殺し屋の目つきだったんだぜ? なあ、石井?」
藤林は言い訳すると、石井に同意を求めた。しかし、
「それほどヤバイ感じは無かったぞ?」
彼は同意しなかった……。
「アンタがビビリなだけじゃない?」
宮武が藤林を馬鹿にした。
「だいたい、おまえが立ち止まらなければ良かったことじゃないか?」
同意の求めの次は、責任の押し付けだった……。まるで官僚のような彼に、よく石井たちのような友達ができたものである……。
「もうやめて!!! せっかくの旅行なのに!!!」
高倉が叫んだ。
その途端、嫌な空気が客室中を漂う……。