ちぎれた世界にて
「ふ〜ん、なかなか立派な船じゃない」
あの4人の高校生たちは、港の埠頭にいた。彼らの目の前には、大きな客船が停泊しており、その前には大勢の人々がいた。この旅行の参加者のようだ。潮風が海から吹いていたが、とても暑かった。
参加者は1グループ4人で、家族連れや大学のサークルといったグループが多く、高校生のグループは少なかった。日帰り旅行ではないのと、勉強が関係しているのだろう。
「私たち、暇な人間だと思われているかもね」
「オレ、コイツの家で勉強合宿やるって言って来ちゃったよ」
「心配されるよ!」
「大丈夫だって」
「俺も勉強合宿って言ってきた。旅行なんて許可されないだろうしさ」
「も〜!」
「アタシは頑張って説得したわよ。高校生活最後の思い出のためにってね!」
「それではみなさん、船へ御案内します」
4人が話をしていると、客船の乗船口の前にいる男が言った。この旅行のスタッフたちが、軍隊のように横1列に整列している。
「なんだよ。ほとんど男じゃねえかよ……」
「女も、サッカーやってそうな女だしな……」
2人の男子が残念そうに顔を見合わせた。
「なんか不自然だよ」
「旅行会社の人間にしては、イカツイ外見ね。かっこいいからいいけど」
2人の女子は、怪訝さと憧れが混じった顔をしていた。
「それではグループごとにお名前をお呼びます。第1グループの藤林御一行様」
「ハイ!!!」
藤林という名前の、例のハイテンション男子が元気よく手を上げた。あまりにも大きな声だったので、目立ってしまい、他の3人は恥ずかしそうにしていた。
しかし、藤林は、そんなことをお構いなしに、名前を呼んだ男のところへ走っていき、他の3人も急いで後を追う。
「藤林さん」
「ハーイ!」
あのハイテンションの男子が大きく返事する。
「……石井さん」
「ハイ」
クールな男子が返事する。
「宮武さん」
「アタシです」
勝気な女子が返事する。
「最後に、高倉さん」
「はい」
控えめな女子が小さく手を挙げて返事する。
これで、あの4人組全員の名前がわかったわけだ。
他の参加者も、順番に名前を呼ばれていく。そして、全員の名前を呼び終えた男は、名簿に最後のチェックをを記すと、
「では、そこから乗船して、客室のほうへどうぞ。後で放送による案内がありますので、客室でお待ちください」
そう言って、客船への乗船階段を指さした。
参加者たちは、石井たちのグループを先頭に並び、乗船階段へ向かっていく。