ちぎれた世界にて
石井は物陰に隠れながら船内を見て回った。そして、彼は、本日2回目(まだ日付は変わってなかった)の地獄絵図に驚いていた……。
敵兵たちの死体が船内のあちこちに転がり、プールにぷかぷかと浮かんでいる死体もあった……。1機のヘリが甲板上に墜落しており、パイロットは機内で燃えていた……。吹き飛んだヘリのブレードが、デッキに並べてある木製のリクライミングチェアに突き刺さっている。
船の後方の海には、10機以上のヘリが墜落していたり、死体がぷかぷかと浮いていた……。
どうやら、これらはすべて、尾張たちがやったことらしい……。石井はそのことを信じられなかったが、今度は、尾張たちへの恐怖心が沸き始めていた……。
ルイ・アームストロングが歌う『この素晴らしき世界』が、地獄絵図のその場に流れていた……。今気づいたが、リピート再生になっているようだ。
「船長や船員がどうなってもいいのか!?」
船に乗りこんできた中隊長が、ブリッジに立て篭もっていた。人質は、船長(七島)たちクルーだ。この中隊長は、部下がすべてやられると、ブリッジに逃げ込んだのだった……。そして、彼は、船長などのクルーが死ねば、船の操縦ができなくなり、尾張たちが困ると考えたようだ……。
尾張たちはブリッジの前におり、
ガチャン!!!
何のためらいもなく、尾張が手榴弾をブリッジに投げ込んだ……。
「なに!?」
床に転がっている手榴弾を見た中隊長が叫ぶ。船長たちは悲鳴をあげた。
ドカーーーン!!!
ブリッジで手榴弾が爆発し、手榴弾の無数の破片が、ブリッジにいた全員を突き刺さった……。とっさに隠れた中隊長だけが即死せずに、
「ギャーーーー!!!」
激しい苦痛でのたうちまわっていた……。裂けた腹の中に、破片が突き刺さった臓物が見える……。
尾張たちは、何ごとも無かったように、ブリッジに入ってきた……。
「操縦を頼む」
「了解」
尾張の部下である金髪碧眼の男が、操縦舵を握った。彼の後ろには、「前任」の操縦者が死体で転がっていた……。
「……お…おまえら、何者……だ?」
虫の息の中隊長が、尾張たちに尋ねた。しかし、彼らはスルーし、それから1分もたたないうちに中隊長は死んだ……。
「もう船内に敵の姿はありません」
「レーダーにも敵の姿はありません」
操縦舵を握っている男とは別の男と女が、監視カメラやレーダーを見ていった。
「それじゃあ、オレはあのガキどもを寝かしつけてくる」
尾張はそう言うと、あくびをしながらブリッジから出ていく。
「あっ、音楽はもう止めていいぞ」
その際、彼はそう言い残し、名曲『この素晴らしき世界』は途中停止した。