ちぎれた世界にて
豪華客船は夜の海を進んでいた。船のデッキに、石井と高倉と女の子がいた。女の子はまだおかしくなっている状態だ……。おそらく、PTSDで、死ぬまで完治は難しいだろう……。
「ねえ、宮武ちゃんと藤林君の親には、なんと言おう?」
高倉が言いづらそうに、石井に尋ねた。石井は少し考え、
「信じてもらえないだろうけど、真実を話すしかないよ」
自信無さげにそう言った……。
「あれ? この曲は……」
船内に、名曲『この素晴らしき世界』が流れ始めていた。ブリッジのほうを見てみると、尾張と他の3人がニヤニヤと、石井たちを見ていた……。どうやら、石井と高倉がデキていると思い、このロマンチックな曲を船内に流し始めたようだ……。
「変な人たち!」
高倉は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた……。
バッバッバッバッバッ!!!
そのとき、ルイ・アームストロングの歌声を遮って、ヘリが飛ぶ音が聞こえてきた……。夜空を10機以上のヘリが飛んでおり、それらは船に向かって一直線に飛んでいた……。
「救助だ!!!」
高倉は飛び上がって無邪気に喜んだが、
「ヤバイ!!!」
尾張たちは、救助じゃないと察知した様子で、中国の工作員が使っていた『AK47』を使い、やって来た数機のヘリに向かって撃った……。
ボーーーン!!!
そのうちの1機のヘリの増槽燃料タンクが爆発し、爆風と炎にあおられたそのヘリは、海に墜落した……。残りの機は、尾張たちの死角となる船の後方に向かい、進行する船といっしょに移動しながらのホバリングを始めた。
「敵が乗りこんで来るぞ!!! おまえらは大丈夫だと思うが、念のため、物陰に隠れろ!!!」
尾張が、他の3人とともに自動小銃を構え、デッキにいる石井たちの横を通過する際に言った。石井たちは、船内に入り、開けっ放しになっていた客室に逃げ込んだ……。
船内には、名曲『この素晴らしき世界』が、何事も無いかのように流れ続けている……。
尾張たちが船の後方に着いたとき、敵兵たちはヘリから船に降りているところだった。敵兵たちは、あの特殊作戦群の1個中隊だった……。そして、敵兵たちのほうは、尾張たちを中国の工作員だと思ったようだ……。薄暗いせいで、そのうち2人が白人である
タタタタタタタタタタ−ン!!!
尾張たちは、まずヘリの下にいた敵兵たちを射殺し、ロープで降りてくる敵兵を撃ち落とした。ただ、全部のヘリからの敵兵降下を食い止めることはできず、敵兵たちはどんどん「乗船」を始めていた……。
「オレはヘリをやる。おまえらは敵兵をやれ」
「了解」
尾張はすべてのヘリを倒し、他の3人は敵兵を倒すことになったのだった……。どう考えても、それは不可能なことに思えた……。