ちぎれた世界にて
第5章 ちぎれ
石井たちと尾張たちはダクト内を縦横に移動し、やがて、研究所の地上2階に出た。ダクトから出た場所は食堂で、幸いなことにゾンビは1匹もいなかった。ただ、真っ二つになった机や紙などが、薄暗い食堂に散乱していた……。
「ああ、このパターンなのか」
窓の外を見た尾張が、意味ありげにそう呟いた……。薄暗いのは窓の外が真っ暗なためで、石井は腕時計の時刻を見て、首をかしげていた。なぜなら、腕時計が示す時刻は、まだ昼の2時ぐらいだったからだ……。
「もう壊れたのか」
石井は舌打ちしたが、
「いや、壊れているのは、腕時計ではなくこの世界だ」
窓の外を見ている尾張は、静かにそう言った……。石井と高倉は意味を理解できずに、顔を見合わせていたが、尾張は話し続ける。
「この世界は、本当の世界ではないということだ。エレベーターでの白い光を覚えているか?」
「ああ覚えてるよ」
「あの光は暴走した異次元の穴作り機械から放たれた光で、どうも変わったことをしてくれたようだ」
「どんなことを?」
「元の世界からちぎって、別の小さな世界を作ったということだ」
「……ということは、俺たちが今いるのは異次元だってことか? アンタ、頭がおかしくなったんじゃないのか?」
「じゃあ、窓の外を見るんだな」
尾張がそう言ったので、石井たちは窓に駆け寄り、真っ暗な窓の外を見た。
ほんとに何も存在していなかった……。窓の向こうには、引きこまれそうになるほどの暗闇が広がっており、地面も暗闇で落ちたらどうなるかなど考えたくもなかった……。
「オレは夢を見ているのか?」
石井は頭を抱えこんだ。
「似たような状況だ。我々は元の世界では気絶しているのだ。ゾンビも含めた研究所にいた全員がだ」
「じゃあ、藤林はともかく、宮武はまだ生きているんだな!?」
石井は期待を込めて尋ねたが、
「残念だが、この世界で死んだ者は元の世界でも自動的に死ぬ。たとえるなら、映画の『マトリックス』のような世界なんだここは」
尾張に否定された……。
「二つに割れている物は、光にうまくちぎりそこなった物だろう。もう半分は元の世界にあるんだろうな」
彼が、斜めに傾いている机に触れながら言う。
「それで、どうやったら元の世界に戻れるんだ?」
「少し面倒なんだが……。そこの女子、ちょっと来い」
尾張は高倉に、目の前に立つように言った。そして、彼は、ポカンと突っ立っている彼女の頭の上に、
ガンッ!!!
思いっきりゲンコツを喰らわした……。彼女はすぐに気絶した……。