ちぎれた世界にて
バキィーーーン!!!
ドアが耐えきれずに、ドア枠からブッ飛んだ……。勢いよく外れたそのドアは、助手にガンッと当たり、助手はあお伏せに倒れてしまった。助手は起き上がろうとしたが、先頭にいたゾンビに首を噛まれた……。何匹かのゾンビも、助手に次々と噛みついてきて、助手は断末魔の声を虚しくあげた……。
「ほんとに長くは持たなかったな」
尾張はそう皮肉を言い残すと、他の3人といっしょに逃げ出した。拳銃の弾は残り少ないのだろう。
尾張たちを追う形で、石井たちや博士もゾンビから逃げ始めた。前にも言ったが、「走れない」タイプのゾンビなので、走れる人間が追いつかれることはまずなかった。ただ、小さな女の子がいたので、彼女および彼女の手を引いている宮武と高倉は、ゾンビとの距離をあまり稼ぐことができなかった……。石井は、彼女たちに合わせて走っている。
先を進んでいた尾張たちは、通路の行き止まりにあったドア(幸いなことに、鍵はかかっていなかったようだ!)を慎重に開け、部屋の中に逃げ込んだ。
「早く来い!!! ドアを閉めるぞ!!!」
ドアのところにいる尾張が、石井たちに向かって叫んだ。まるで、先ほどのエレベーターのような感じで、石井は今度は誰も死なせないと心に決めた。
彼は何度か立ち止まって振り返ると、近くにあった物をゾンビたちに投げつけた。しかし、ほとんど何の効果も無く、
「余計なことしてないで、早く来い!!!」
「邪魔だから、立ち止まらないで!!!」
と、尾張や宮武に言われてしまった……。ただ、
「ありがとう」
高倉が、石井の気持ちを理解した様子でそう言ってくれたので、石井の行為はほんの少しだけ報われた。
そんな彼の横を、博士が追い抜いていった。どうやら、年寄りのくせに足は速いようだ……。
石井たちと博士は、尾張たちが逃げ込んだ部屋に飛び込み、すぐに尾張がドアを閉めて鍵をかけた。それから約1分後、ゾンビたちがドアを叩き始めた。このドアもいつまで持つかわからなかった……。
彼らが逃げ込んだ部屋は、ただの物置で、役に立ちそうな武器といえば、壁に立てかけてあったホウキぐらいだった……。ただ、そのホウキや物置にあった物のいくつかが半分しか存在していなかった……。
「なんでこの棚、半分しかないの?」
「こういう棚なんだろ」
高倉の問いかけに、尾張が適当に答えた……。
「さっき俺が投げていた物も形が半分だった……。なんかおかしいぞ」
「この世はおかしいことだらけさ」
彼は、縦半分に割れている鉛筆を手にしていた。石井は、彼のその態度から彼が何かを知っていると察知し、それを教えてもらおうとした。だが、
「あのダクトは通れそうです」
尾張の部下らしいあの3人のうちの1人が口を挟んだ……。他の2人が、天井のダクトカバーの金網を外した。ダクトは大人一人が楽に動けるぐらい太かった。
「よしおまえらが先導しろ。地上2階まで上がって脱出する」
「了解」
3人は天井のダクトに入っていった。尾張もそれに続いて入っていく。