ちぎれた世界にて
「なんだ今の光は!?」
石井はそう言ったが、誰も何も言わなかった。
どうやら、尾張にも把握できていないらしく、他の3人と顔を見合わせていた。ただ、さらにめんどうな事態になったということぐらいは、彼の顔から読み取ることができた……。
エレベーターは、一番下の地下3階で止まった。尾張が指定したフロアだったが、エレベーターの上昇ランプがついたので、誰かがこの地下3階で、エレベーターを呼び出していたようだ……。
もうゾンビになっているかもしれないため、尾張たちは拳銃をドアに向け、石井たちは女の子の前に立ちはだかった。
エレベーターのドアが開く……。
「う…撃たないでくれ!!!」
エレベーターの前にいたのは、博士とその助手だった……。石井たちはほっとしたが、尾張たちは博士と助手に拳銃を向けたままだった……。
「私たちはゾンビじゃない!!!」
「そんなことは見ればわかる!!! それより、さっきの光はなんだ!!!」
尾張たちは拳銃を向けながらエレベーターを降り、石井たちは彼らの後ろに隠れた。どうやら、この付近にゾンビはいないようだ。
尾張の強い口調に押された博士は、
「異次元との穴を作る機械が暴走してしまったんだ。詳しいことはわからない……」
弱々しくそう呟いた。
そのとき、博士の頭の中で、この男はなぜ、ゾンビではなく先ほどの光のことを質問してきたのだろうかという疑問が沸いた。しかし、この男からなぜか恐怖感を感じ、質問をぶつける気にはなれなかった。
「その機械はどこだ?」
「もう完全に壊れて停止しているよ」
助手が手持ちのノートパソコンを開き、監視カメラの映像を見せた。あの機械は原型をとどめないほどに壊れており、無数の機械の部品の上をたくさんのゾンビたちが散歩していた……。
「この部屋はこのフロアにあるけど、ドアは閉めたよ」
助手が背後を指さす。耳をすませると、背後のドアの向こうにいるゾンビたちのうめき声が聞こえてきた……。
「残念だが、見に行くのは無理そうだな」
尾張はどこかほっとしたような口調でそう言った……。
「ねえ!!! こんなところ早く出たいんだけど!!!」
宮武が叫ぶ。彼女の横にいる高倉と女の子は、肉体的にも精神的にもクタクタのようだ。
「なら、そのエレベーターを使って、ロビーからどうぞ? 見送りをしてくれる奴らがたくさん待っているぞ?」
尾張はそう皮肉って、彼女をからかった……。
「うるさいわね!!! アンタたちは何者なのよ!? それと異次元との穴を作る機械ってなんなのよ!?」
宮武は怒鳴った……。
その怒鳴り声が、大部屋にいるゾンビたちにも聞こえたらしく、ゾンビたちがドアを激しく叩き始めた……。ドアは鉄製だったが、両開きで幅広だったため、たくさんのゾンビの重みで、ドアが変な音を立て始めた……。
「まずい。そう長くは持たないぞ」
博士がそう呟いた瞬間のことであった。