ちぎれた世界にて
第4章 喰うか喰われるか
地下の大部屋にゾンビの団体客が「来日」し始めた頃、石井たちと例のグループと女の子はトイレ(もちろん、男女別)にいた。石井たちと女の子は洗面台で手を洗ったりしており、例のグループは4人(男3・女1)とも個室トイレに入ったままだった。
「よほど悪い物を食べたんだろうな」
藤林がワックスで髪の毛を整えながら呟いたとき、ロビーにいたスタッフ一人がトイレに入ってきた。最初、スタッフも用をたしに来たのだと思っていたが、スタッフが拳銃を構えたことと、
「両手を頭に乗せろ!!! これは遊びじゃないぞ!!!」
というセリフから、自分たちは面倒なことに巻きこまれてしまったのだと確信した……。ただ、石井と藤林には、拳銃を向けられているという実感がわかないようで、ただ呆然と突っ立っていた……。
「なんなのよ!!!」
という宮武の怒声が、隣りの女子トイレから聞こえてきた。どうやら、女子トイレにも拳銃を構えているスタッフが出現したらしい。
「他の奴は!?」
「長いほうをしてるよ」
藤林が個室トイレのほうを指さして言うと、スタッフは一番近い個室の前に行き、
「おい!!! ケツをふかなくていいから、早く出てこい!!!」
ドアをノックしながら叫んだ。
パンッ!!!
すると、銃声が響いた……。突然の銃声に驚いたが、本当に驚いたのは、その銃声が個室から発せられたことだった……。スタッフは頭から血を吹き出させながら、その場に倒れこんだ。額には小さな穴が空いている……。石井と藤林は、何が起きているのかがわからなかった。
ガシャーーーン!!!
このガラスが割れるような音が、女子トイレから鳴り響いてきた。宮武たちの身に何かあったのかと思ったが、そのすぐ後に、
「清掃員でもないのに、女子トイレに入ってくるんじゃねえ!!!」
「やりすぎだよ」
「ワー、痛そ−!」
という宮武たちの声が聞こえてきたので、石井と藤林は安堵した。どうやら、宮武がスタッフに顔面パンチをお見舞いしたようだ……。
そのとき、例のグループの男3人が個室から出てきた。3人とも、拳銃を持ち、防弾チョッキなどを着ており、まるで戦場に行くようだ……。
「あんたたちは何者だ!!! こいつはなんでピストルを向けてきたんだ」
当然の質問を石井がした。しかし、
「詳しい話は後でする。オレのことは『尾張』と呼んでくれ」
スタッフを撃ち殺した『尾張』という男はそう言うと、2人の男を連れて、男子トイレから出ていった。
「ちょ…ちょっと待ってくれよ」
石井と藤林は、尾張たちについていく。
女子トイレの前に、拳銃を構えている例のグループの女性がいた。彼女のすぐそばには、宮武と高倉と子犬を抱えた女の子がいた。
尾張たちとその女性は、無言でうなずくと、すぐにロビーへと走り出した。石井たちと女の子は、なんとか彼らについていく。