夢の続き
二〇光年の急な日帰り旅行、そのためか高見沢はもうヘロヘロ。それでもアパートに辿り着くとホッとする。やれやれと思いながらドアーのノブに手を掛けた。その瞬間だった。背後に人の気配を感じる。高見沢は咄嗟(とつさ)に振り返り、またここで腰を抜かすほど驚く。そこに夏子Cさんが立っているではないか。
「わざわざここまで送って頂いたのですか、本当にありがとうございます」
高見沢は恐縮し切って、精一杯の敬語で礼を述べた。すると女性は理解に苦しむような表情で、高見沢をじりじりと睨み付けてくる。
「アンタ、その夏子Cって、どこの娘(こ)よ。今までその女と一緒だったのね。折角アナタの様子を見に来てあげたのに……。明日の部屋の掃除、止めたわ。さあ私への償いで、今から寿司屋へとエスコートすることよ。ウニにアワビに大トロ、高いネタだけ食べさせてちょうだい」
高見沢にとって、これは一生の不覚。妻の夏子のことをコロッと忘れてしまっていた。その罪滅ぼしにと、この界隈では一番の高級寿司店へと妻を連れて行き、御馳走しなければならない。そんな羽目になってしまった。
結果、愛妻、夏子は極上にぎりを二人前、それに加えて、早採れ焼きまつたけ、そして茶碗蒸しをペロリと平らげたのだ。これに反し、高見沢はきゅうり巻き二本で、ただただ思わぬ出費を凌(しの)がざるを得ない。されど、そんな努力にも関わらず、少なくとも二ヶ月分の小遣いは吹っ飛んでしまったのだ。
そして高見沢は思う。確かに少年時代にC星に行ってみたい、そんな夢を見た。今回それは叶った。しかし、そこにいた一郎Cは邸宅に住み、羽振りが良かった。また夏子Cは、いわゆる古き良き時代の妻だった。それらに比べ、地球の高見沢は貧乏暇なしのサラリーマン、その上に単身赴任で安アパート暮らし。また妻の夏子は滅法我が儘で、高見沢を完璧に仕切ってる。
「一体どうなってんだよ、地球とC星、酷似はしているが、まったく似て非なるものだったよ」と、文句の一つも出てくる。