ハリーの憂鬱
僕はその夜、早めに帰宅した。
早いと言っても、時計は夜九時を回っている。
星屑の下、我が家が見えてきた。
近づくと、家の前に佇む三匹が確認できた。予想通りの展開で嬉しかった。
僕は、車を家の前に停めると、三匹を脅かさないように、緩慢な動作で車から降りた。
そろそろ、三匹に名前をつけよう。
ボーダー(♀)・・・その人なつっこさと可愛さから、「ハイジ」と名づけた。
黒(♀)・・・ラブラドールに似ているので「ラブ」と呼ぶことにした。
そして・・・青い首輪(♂)。
僕はこの人慣れしていない問題児の名前を考えた。
ハイジがいるからペーター?・・・いやいや・・・青い首輪には似つかわしくない・・・・ハリー。
ハリーと言えば、誰もハリーポッターをイメージするだろう・・・そうではない。
クリント・イーストウッドの出世作。アメリカ、ロス警察の汚れた刑事、ダーティ・ハリーから・・・・ハリーと名づけた。ピッタリだと思った。
僕はデッキに上がって、ドアにキーを挿し込む。ドア一枚を隔てて、家の中ではチビ達が、足踏みをしながら待ち構えている。そして、外には分厚い不安のベールに包まれた、捨て犬三匹。
僕自身がパニックになりそうだった。
僕は細身の体が入る分だけドアを開くと、すり抜ける様に家の中に飛び込んだ。チビ達に襲われる。まずは、儀式。
いつも通りに儀式が終わると、バッグをテーブルの上に置き、急いで大皿を三つ用意した。ペーストを二缶。それにタップリのドライフードを混ぜて三匹分の食事を準備した。