ハリーの憂鬱
良く見れば、奥様の手には、青い首輪が握り締められていた。
「自分で・・・抜きましたか?」
「はい・・・強引に・・・すっぽり・・・そのまま、おうちに入って・・・出てきません」
「そうですか・・・驚いたのでしょう・・・何処に引っかかったのですか?」
「ここです・・・この出っ張った杭に・・・」
「ハリーも強運だな・・・お腹とか、首とかに刺さっていたら命取りだ。」
「そうなんです・・・私、てっきり・・・首に刺さったかと思っちゃって・・・」
「首輪・・・貸してください。僕がつけましょう」
「すみません・・・お願いします」
僕は、首輪を受け取ると、庭に入った。
犬小屋を覗くと、ハリーが顔を覗かせた。
「ハリー・・・僕だ・・・」
ハリーはシッポを振りながら、僕の胸に飛び込んで来た。
吠える事はしない。小さく・・・切ない声で鳴いた。
「お前は運の強い子だ・・・ハリー・・・大丈夫。もう、大丈夫だ」
僕は、ハリーを抱きしめた。
雨に濡れた犬の匂い。
ハリーが、僕の顔を舐める。
「ハリー・・・お前は、ここの家族なんだ。いいか、ハリー。しっかり、頑張るんだぞ。お前は運の強い子だ・・・ホントに強い子だ」
気がつけば、奥様が、僕とハリーに傘を差していた。