ハリーの憂鬱
「ひょっとしたら・・・自分で首輪を抜くかもしれません。その時、脱走しない様に、その場にいてください。今から都市高速で行きます。目だけは離さないで下さい」
「わ、解りました!すみません!」
「大丈夫です。今から行きます。」
僕は、電話の話から、ハリーの状況を想像した。
ハリーはフェンスを飛び越えようとしたようだ。
壁なら、足を着くことで超えられただろう。
だが、フェンスだと、その高さを跳躍しなければ、超えることが出来ない。
ハリーはフェンス超えに失敗し、フェンスの何処かに首輪を挟んでしまったか、細い杭のような物に首輪が絡まったか・・・。
ハリーは驚いてパニックになったのだろう。
命を左右するような状況ではないと思った。
ともあれ、急ぐ必要がある。
僕は、小雨の降りしきる都市高速道路を、スピード違反ギリギリで飛ばした。パトカーにでも捕まれば最悪だ。
柳瀬家には、予定よりも五分程早く着いた。
奥様が傘を差して出迎えてくれた。
ハリーの姿がない。
僕が車から降りるなり、奥様は何度も頭を下げて謝った。
「梅雨川さん・・・すみません!・・・どうしたらよいか判らなくって・・・ごめんなさい!」
「ハリーは何処ですか?」
「犬小屋にいます」