ハリーの憂鬱
「ええ・・・壁を越える様にはいかないでしょうけど・・・念の為に・・・ここを憶えるまでは、繋いだ方が良いでしょうね。」
「わかりました・・・そうします」
僕は車からハリーを出した。
奥さんは、渡したバスタオルを犬小屋に丁寧に敷いていた。
どうせ、直ぐにくしゃくしゃになるのだが・・・。
僕はハリーを連れて庭に入った。
リードを奥さんの手に渡す。
「何かあったら、呼んで下さい」
「はい・・・頑張ります」
「今夜は吠えるかもしれませんよ・・・ご近所は大丈夫でしょうかね・・・」
「その時は、私が謝って回ります」
翔太君は、少し距離を置き、嬉しそうにハリーを見ていた。
大丈夫だろう。
全てにおいて、ハリーが優先されている。
ハリーは僕をじっと見つめていた。
自分の身の上に起きている事を、知っているのだろうか。
「じゃあ、あとはお願いしますね」
「はい。梅雨川さん・・・ありがとうございました」
「頑張ってくださいね」
「はい!・・・頑張ります!」
「ハリー・・・サヨナラ」