ハリーの憂鬱
「もしもし・・・梅雨川です」
「あ・・・柳瀬です・・・先程は、ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ・・・どうかしましたか?」
「はい。あの・・・来られる時に持って来て頂きたい物がありまして・・・」
「タオル・・・ですか?」
「あ、はい。そうです。できれば、梅雨川さんの匂いがついたものを頂けませんか?」
「バスタオルを持っていきます」
「ほんとに、ありがとうございます・・・お忙しいのに」
「構いませんよ。ハリーの幸せの為です。予定通りに着けると思います」
「主人が、駅前で待っていますから、着きましたらお電話いただけますか?」
「判りました・・・そうします・・・では、後ほど・・・」
「はい。ありがとうございます。」
空を見上げたら雲行きが怪しい。
雨になりそうだった。
僕は、少し早いかと思ったが、ハリーを助手席に乗せると、車のエンジンキーを回した。
市街地を海に向かって走ると、都市高速道路の百道ランプに向かう。
右手には川。
その対岸に、福岡ドームが見える。
料金所のゲートを抜けると、一路、篠栗へ向かった。
フロントガラスを、雨粒が洗い出した。だが、ワイパーを作動させる程では無い。点々と張り付いた雨粒が、上に向かって流れていく。
最初は、落ち着きが無かったハリー。
眺める風景も無く、退屈そうに助手席で伏せていた。