ハリーの憂鬱
僕は、グラスに氷を放り込み、スプーン一杯の砂糖を載せ、ラム酒を注いだ。砂糖が溶け出し、グラスの中でゆっくりと渦を巻いた。
この世に生を受けた時から幸せが約束された子と、ハリーのように翻弄されながら生きていく子がいる。
命があるだけ幸せなのか・・・ハリーを保健所から引き取る時に見た光景。
僕は眩暈を覚え、吐き気がした。
どの犬の目も、必死で僕を追っていた。
ほんの数秒の間に、彼達の不安や悲痛な叫びが伝わったのかもしれない。
いや、犬好きゆえの自己暗示だったのかもしれないし、僕の境遇から来る同情だったのかもしれない。
捨て犬は放って置けない。捨て子だった自分の境遇と、どうしても重ね合わせてしまう。
人も犬も、命の尊さは同じはずだ。そんな事を想いながら、グラスを傾けるうちに、最終的には僕が飼うしかないのかな・・・と感じていた。
チビ達との相性さえ合えば、隔離する必要など無いのに・・・と思いながら、冬の嵐を凌いだ。
チビ達は、ソファの上で丸くなって眠っている。
僕は、時々、ハリーの様子を確認するためにバスルームを覗いた。
僕が顔を出せば、ハリーは飛び起きて甘えてくる。
僕を主人と思っているのかどうかは判らない。
ハリーの心の傷は簡単には消えるものではないだろう。ハリーの媚の売り方が、未だに悲痛な叫びに聞こえた。胸をキリキリと刺されるような気持ちになった。