ハリーの憂鬱
中にはケージがズラリと並び、捕獲された犬たちが入れられていた。それを見た瞬間、僕は眩暈を覚え、吐き気がした。
「どうかしましたか?・・・大丈夫ですか?」
「ええ・・・ちょっと、眩暈がしただけです」
「此方です」
ハリーは緑色のケージに入れられていた。
寝ていたらしく、起き上がってキョトンとしている。
僕を確認すると足踏みをしながら、片手を上げてケージを引っ掻いている。
職員がケージの扉を開けると、ハリーは僕の胸に飛び込んできた。
鼻を、頬を、額を舐めながら、微かに悲鳴のような声で鳴いた。
壊れた笛を吹いているような声だった。
「じゃあ、梅雨川さん・・・宜しくお願いします」
「お世話になりました」
「里親・・・見つかるといいですね」
「ええ・・・必ず、見つけます」
僕はハリーに首輪をつけると、リードに繋いで引いた。
ハリーは僕を見上げながら着いて来る。車のドアを開けると、自分から飛び乗った。
エンジンを掛け、深呼吸をした。
アクセルを踏み込むと、我が家へと向かった。
ハリーは、半分空けた窓から鼻先を出して前方を見ている。
短い耳がパタパタと風にそよいでいた。