ハリーの憂鬱
恐らく、何時も通りに首輪を外し、そこら辺りで遊んでいるところを、保健所の職員に捕獲されたのだ。
何故・・・だれかが通報したに違いない。
何の根拠も無く、僕はそう信じ込んだ。
でも、誰が通報したのだろう・・・家の前は、田んぼと苺畑。苺農家の中村さんとは仲良くさせて貰っている。僕に黙って通報したとは考えにくい。
一体・・・誰が・・・僕はそれだけを考えていた。
一生懸命生きているのに・・・一生懸命世話をしているのに・・・一体、誰が・・・僕は、主の無い首輪を握り締めて、悔しくて、涙が出た。
翌日。一番に保健所に電話を入れると、僕の直感は的中していた。
保健所までは車で二〇分程度だ。僕は直ぐに出向いた。事務所のドアをノックして入る。十人ほどの職員が一斉に僕を見た。皆、無表情。僕は、訳も無く気が重くなった。
「先ほど、電話した梅雨川ですが・・・・」
「あ・・・・其処へおかけ下さい」
そう、言って事務机を指差したのは、僕より年かさの男性職員だった。
僕は指示されるままに、灰色のパイプ椅子に腰を下ろした。
職員が書類を片手にやって来た。
「梅雨川さんですね」
「はい」
「昨日、通報がありまして・・・」
「・・・通報ですか?」
僕は昨夜の悔しさが再燃してしまった。何時に無く落ち着きを欠いている。
「ええ・・・ワンちゃんを散歩させていた人がね・・・吠えられたって。放し飼いは・・・一応禁止なもので、捕獲しました」