ハリーの憂鬱
ヘッドライトの先に二匹の動物が動くのが見えた。
(イノシシ?)
この辺りは自然が残っているため、週に1〜2回はイノシシと出くわす。
イノシシのみならず、雉もいれば、フクロウもいる。野うさぎに至っては町で暮らす人がカラスを見るようなものだ。
僕は車のアクセルを緩めてギアを落とした。
近づいてくる二匹の動物・・・・犬であった。
二匹の犬は接近する僕の車に慌てる様子も無く、その距離はあっという間に無くなった。
二匹の犬が立ち止まった。同じく車も止まる。僕はヘッドライトを切り、車幅灯だけにして様子を窺った。
一匹は真っ黒。小柄なラブラドールの様だ。もう一匹は毛並みや配色がボーダーコリーに似ている。だが、二匹とも恐らくミックス(雑種)のようだ。
二匹は立ち止まって車の様子を窺っていた。
僕は静かにドアを開けて車を降りた。すると、黒がシッポを下げて逃げた。
だが、十メートル程逃げると振り返り、再び僕の方を向いた。
警戒心を露にした黒とは対照的に、ボーダー風はシッポを振っている。
僕は腰を屈めてボーダーを呼んだ。
「大丈夫だよ・・・おいで」
ボーダーは、その声を待っていたかのように、僕に走り寄ると、体を摺り寄せてきた。
人なれしているのか・・・必死で助けを乞うているのか・・・僕はボーダーを脅かさないようにしながら体に触れてみた。
首輪は付けていた。明らかに栄養失調。細い背骨が、その数が解るほどに小さな山をゴツゴツと作っている。そして、アバラも洗濯板の様に露で、痩せこけていた。
僕は刹那、怒りが湧いた。