ドッグダム(DOGDOM)
第五章 堕ち行く犬たち
ヘヴゥン・ピークスの麓。
母なる山に落ちた雨は、地中深く吸い込まれ、千年の時を経て再び地上へ湧き上がる。湧き上がった清水は束となり、川と形を変える。その、清らかな川の側に、一際高い三本の杉の木があった。その巨木たちに守られるかの様に小さな家がある。家の周囲には、ありとあらゆるハーブが生い茂り、色とりどりの花が咲き誇っている。
庭には二羽の鶏・・・が、砂をついばんでいた。
普段は夢の中のように美しい世界が、今は殺気に満ちている。草むらの向こう。そして椚の木の陰。そこ彼処からハイナ達が様子を伺っていた。
小さな家には入りきれずに、庭や倉庫で、都落ちした犬達が束の間の休息を取っていた。手負いの犬も多い。少しばかりの食料が配給されていた。
「レナ様、ご無事で何よりです」
「はい。マスター・サン。ハチベェのおかげです。まるでジェットコースターのようでした」
「よくやってくれた。ハチベェ・・・礼を言うぞ」
「何を・・・運ぶのは私の仕事でございます。では、私はこれにて・・・御用の節はフリーダイヤルで・・・では、失礼!」
「ハハハ。頼もしいヤツ・・・その時は、また頼むぞ」
ハチベェは深々と頭を垂れると、小麦色の弾丸と化して、森の中へ飛んで消えた。
作品名:ドッグダム(DOGDOM) 作家名:つゆかわはじめ