ドッグダム(DOGDOM)
衛兵が二匹やって来た。ドーベルマン。城を守る実直な猛。
松明の油をチェックすると、ヒソヒソと世間話をしながら石の階段を下りていった。大きな影が天井を舐めていく。
再び、小さな影が動いた。その姿が松明の淡い灯りで浮かび上がった。
油の抜けたパサパサの土色の体毛は、密度がなく先端が縮れている。尖った耳と猫のように丸い背中。切れ長の目がオレンジ色に鈍く輝いている。黄色く汚れた牙がチラリと見えた。長くて太い尻尾が箒のように床を擽り、小さな埃を立てていた。狡猾な表情がいかにも怪しげだ。腰に薬袋をぶら下げている。
ハイナ族。
この自由の王国ですら下級民族。城壁の掃除やゴミの処理といった仕事にしか就けない。城の中には入れない身分だった。
二匹のハイナ族は尻尾で埃を払いながらヒタヒタと闇の中へと消えた。
二匹のハイナ族は古びた分厚い扉の前に立った。
ドアの蝶番の繋ぎ目にゆっくりと油を注ぐと、鍵穴に細い金具を差し込んだ。
小さな金属音がカチャカチャと鳴って、扉の鍵が開いた。体が入るだけ扉を開くと、二匹のハイナ族は吸い込まれるようにドアの向こうに消えた。
カチカチという、陶器が当たる様な小さな音だけが聞こえる。
カチ・・・カチ、カチ・・・カチ・・・・。
その音は暫く続いた。
音が止むと、開いたままのドアの隙間から尖った口先が出てきた。その奥で、鈍く光るオレンジ色の眼が辺りの様子を伺っている。
「いいぞ・・・誰もいない」
「衛兵に見つかるなよ・・・・退散だ」
「へへへっ・・・明日が楽しみだぜ」
ドアの隙間からすり抜けるように出てきた二匹のハイナ族は、分厚いドアを慎重に閉めると、来た時とは打って変わって風の様に飛んで消えていった。
作品名:ドッグダム(DOGDOM) 作家名:つゆかわはじめ