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妻のうしろ

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結婚当時は、意気盛んに仕事に燃えて、家庭を守るぞと自分に叱咤激励ならぬ賛嘆激励!?と言いつつ、飲んで帰ってきては、妻を相手に上司の愚痴と会社へのぼやきを聞かせた。
若さゆえに無茶な酔い方で、無賃でタクシーの運転手を困らせて帰って来たのを、数枚の札を握りしめて 物陰からそっと見守り対処してくれたことも最近になって聞かされた。
子どもが熱が出たことすら、妻の所為のように叱りつけたときも、妻は静かに子の手を握りしめていた。家の中のこともほとんど私の手を煩わせないようにしていたのか、電球が切れたときも、組み立て家具を買ったときも、私が最近覚えたテレビの録画も妻がやってくれていたことを思い出していた。

「俺が幸せにしてやるはずだったのに俺が幸せにしてもらったんだなー」
私は、ソファの背凭れに頭を預け、ぼんやりと『祝 結婚記念』の紙片を見つめた。
妻が帰ってきたら、髪型を褒めてあげようか、美辞麗句を並べてみようか、と何だかにやけている自分に はっと気付いて周りを見回した。
(良かった。誰にも見られてない)

妻を待つ間、作ったアイスコーヒーは、美味しくはなかった。
(あいつ、こんな風に作ってたよなぁ。なんであの旨さが出ないんだ。早く帰って来い)
(早く帰って来い?来い、鯉、濃い、恋……)
(俺は、ずっと恋してるぞ。うんそれは自慢だ。うんずっと好きだ)
(よし、もっと幸せにするぞ……って馬鹿みたいかな、俺)
一人の頭の中は大騒ぎを始めたように楽しかった。
作品名:妻のうしろ 作家名:甜茶