メディカル・ヒストリー・ツアー
美津枝は以前からヒステリックな面があり、同い歳故の気軽さからか、それはいち子に向けられる事が多かったのである。
いち子は美津枝をあまり好きではなかったが、仲の良いグループの他の皆はさほど気にしている風でもなく、いち子は仕方無しにと言うほどでもないが、美津枝を含めた四人と行動を供にする事が多かった。
タヌキの頭がいち子の頭でボコンと情けない音をたてたが、いち子の耳にはそれが闘いのゴングであるかの様に響いた。
普段は皆に合わせて大人しくしているのだが、もともと体育会系で元気の良いいち子はこうなるともう止まらない。
「アチョーッ!!」
いち子は怪鳥のような雄叫び(雌叫びか?)とともに信じられない程の跳躍を見せると、美津枝の顔面に見事な跳び蹴りをお見舞いした。
吹っ飛ぶタヌキの身体の美津枝。だが、自分の捨てたもう一つのゴミ袋がクッションになって倒れたダメージは殆ど無かった様である。
ゆっくりと半身を起こし、背中のジッパーを下ろすと、美津枝は立ち上がりながらタヌキの着ぐるみを脱いだ。
真っ黒なボディタイツに身を固めた美津枝は片足を引くと半身の姿勢をやや前傾に倒し、挑発的とも取れるファイティングポーズをとった。
睨み上げる様な視線を正面で受け止めながら、いち子はなぜか全身から湧き上がる悦びにも似た感覚を愉しんでいた。
「美津枝さんやる気ね?」
言うが早いかいち子の足が地面を蹴った。又も跳躍かと思えるほど伸びあがった身体は次の瞬間、美津枝の視界から消え、下からの風圧とともに美津枝の顎をアッパーカットが突き上げた!
作品名:メディカル・ヒストリー・ツアー 作家名:郷田三郎(G3)