メディカル・ヒストリー・ツアー
「いや疑う訳ではないよ。ちょっと言ってみただけさ。いや、本当に美味かったよ。はっはっは」
冷や汗を拭いながら中年男が答える。どうやら出入り禁止になるのを恐れたようだ。
何しろ相手は超人気店なので、予約を取るのも大変なのである。
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「でも、わたしはどちらかと言うとベルサイユ宮殿の晩餐会の方にしたかったわ」
「え~そんなのダッセェよ。第一それってスゲェ高いんだろー?」
母親の意見は即座に年長の息子に脚下されてしまった。
「イエイエお坊ちゃま、来月はフランスフェアがございまして、ベルサイユのバラ園散策コースと舞踏会体験コース(ダンスレッスン付き)が何と!半額でのご提供になる予定でございますよ。しかも舞踏会では不倫カップル当てクイズに正解なされますと更に十パーセントオフにさせて戴いてます」
(と言っても元値からは五パーセント引きですが……)
支配人がニッコリ笑ってしっかり宣伝すると、近くにいた従業員数人が「お~!」と言いながら、パチパチと拍手をした。(まるでTVショッピングのような演出だ)
「実は先ほどお一組様のキャンセルがございまして、今ならご予約を承れますですよ。人数も丁度よろしいようですし……」
「あ、それ戴きますわ。良いでしょ、あなた? 今日は恐ろしい恐竜ツアーにお付き合いしたんだもの。あなた方がイヤならご近所の奥様を誘えば良いし……」
言うが早いか母親は既に予約のためのIDカードを支配人に渡していた。
作品名:メディカル・ヒストリー・ツアー 作家名:郷田三郎(G3)