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アグネシア戦記【一巻-三章】

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「いいわよ、あのまま持たせといて!」

マリアの言葉を切り、フリルは拒絶して首を大げさに横に振った。

「でも、仲間なんですよね?」

そう、言われるとフリルは揺らいだような表情を浮かべた。

「で…でもぉ胸触られたし…」

フリルは小さくなって、俯いた。こうなると子供と変わらない。

「事故なんですから、仕方ないですよ!!グリフォードさんだってやましい気持ちは無かったみたいですし」

そうしてマリアは、グリフォードに顔を向けた、グリフォードはパンパンになった顔のままマリアに感謝するような表情を浮かべていた。

「わ、分かったわよ…じゃあ、酒屋に連れてって」

「はい、喜んで」

聞き入れたマリアは、一行を酒屋に案内した。

「ここがウィプル唯一の酒場です」

マリアが紹介したのは小屋のような小さな建物だった。

「物置小屋?」

フリルはストレートに聞いた。

「酒屋です!ちょっと待っていてください」

するとマリアは小屋の中に入っていった。

「皆さん、中へどうぞ」

マリアに呼ばれた三人は誘われると中へ入った。酒屋の内部は非常に狭く、左右を棚に挟まれており、棚には歪な形をしたビンが無数に置かれていた。

「…いらっしゃい」

奥から声が響いた。フリルが目を向けるとそこには受付席があり、そこには小さな老人が一人座っていた。
「マリアさん、荷物は…」
大荷物を担いだグリフォードが聞くとマリアは老人に目を向ける。

「おお、玄関にでも置いといてくれ」

老人は優しそうな笑顔で告げ、グリフォードは頷くと外へ荷物を置きに行った。
「これなあに?」

そこでフリルが何かに興味を示した指差した、全員がフリルに目を向けると果物用の受け皿に黒い団子のようなものが山積みにされていた。

「それはウィプルでしか採れない【ブラック・チェリー】という果物です。」

マリアはフリルの隣に行き一つを取ると、チェリーという名前の通り。さくらんぼのような形をしていた。フリルは興味深そうに眺めながら相槌をうつ。

「へえ〜!…甘くていい匂いがする…美味しいの?」
「……なんでしたら一つ食べてみては?」


フリルの輝く瞳に負け、マリアはニコニコしながら勧めると、酒屋の店主がギョットした。

「これっ!マリア!」

そう席から立ち上がりマリアは笑顔のまま手で老人を制止する。

「まあまあ…」

それを見た老人は諦めたように肩を落とす。

「わしはしらんからの」

そう言って再び席についてしまった。そんなやり取りを不思議そうに見ていたフリルの口元にマリアはブラックチェリーを持って行く。

「はい、あーん」

「あーん」

フリルが言われたように口を開けるとその中にブラックチェリーをいれ、フリルは口を閉じもぐもぐと噛み締めて味わっている。

「え…?」

マリアはその反応に唖然とした、さらにフリルは幸せそうな顔で両手で頬に触れ。

「これ美味し〜」

「お!?…美味しい!?」

「はあっ!?」

店主は目を見開き、マリアもフリルの反応に驚く。

「うん、この苦味は癖になりそうだわ〜もっと食べてもいい?」

マリアはしぶしぶ頷くと、フリルはパクパクとブラックチェリーを口に運んでいく。

「あ!ずりい!隊長俺にもくれよ!」

そんなフリルの反応に空腹を訴えてラルフは横に立つ。

「マリアいい?」

フリルはマリアに顔を向ける。

「え…ええ…」

マリアは唖然としたまま頷いてしまう。

「よし!ならグリフォードも呼んで皆で食べましょ〜」

フリルはそう言って外に行き、外で素材を仕分けしていたグリフォードを連れてくる。

「早くこいよグリフォード」

ラルフは待ちきれない様子でじたんだを踏む。

「すみません、これを頂いて宜しいので?」

グリフォードは律儀に老人に声をかけた。

「勝手にせい…フレグニール様の素材を運んでくれた礼もあるからの…」

老人は呆れたように呟いてグリフォードは深く頭を下げた。

「ありがたく頂戴します」
「グリフォードぉ…」

ラルフはいまにも暴れだしそうな声色で呟いてきた。

「わかりましたよ…まったくあなたという人は…」

グリフォードもラルフの隣にいき黒い果実を一粒手に取ると、ラルフと共に口に入れた。

「あ!まっまって!!」

少し遅かった。二人は突然口を押さえて床に倒れ悶えはじめた。

【ブラックチェリー】――それはウィプル村でしか採れない珍しいチェリー。芳醇な甘い香りとは裏腹にその味は痛みを覚える程に苦いため、別名【戦慄のプリンス】と呼ばれ、ウィプル村では拷問に使われる程だという――それを口に入れた二人は口の中に広がる激しい痛みと苦味にのた打ちまわる……

「ああぁ!!」

「なにしとるマリア!!果糖汁を持ってこんか!!」
慌てるウィプルの住民の横で。

「なによ、あまりの美味しさに失神したわけ?」

フリルはブラックチェリーの器を抱えてもぐもぐと食べていた。グリフォードは薄れゆく意識の中で思い出した。それはラルフを連れてアグネシアに戻った夕食時、フリルは東洋から送られてくるワサビという食材をすりおろしてパンに縫っていた。あれは非常に苦い物であり、魚介類の臭みを抜くのに使われる食材である。そして彼は後悔したそれを見たときに気付くべきだったと…。

ブラックチェリーを食べて失神した二人は酒屋の老人に介護を頼み、フリルは先に村長の家を訪ねる事にし、マリアに案内を頼んだ。
村長の家は村の真ん中にあった。敷地はアグネシアでいう小さな宿屋のように広かった。

「ここが、村長【ケイオス】様のお宅です。少し待っていてくださいね?」

そう言うとマリアはツインテールに結んだ紐を解いて髪型を整え、フリルをそこにおいて中へ入って行った。


しばらくして、扉が開きマリアが顔を出す。

「フリルちゃん、中へどうぞ」

そう手招きされたフリルはいわれるままに中へと入る。玄関に入るとそこはリビングになっていた、フリルの故郷の作りに似た家である。真ん中には長机があり、奥で村長というには若い顔立ちの青年が頬杖を着いていた。

「ようこそ、客じ…」

フリルの顔をみた青年は驚き顔になり立ち上がる。

「ヴァネッサ様!!?」

青年はとたんに背筋を伸ばして席から飛び出して膝を着いた。

「まさか…ヴァネッサ様がおこし下さるとは!マリア!!頭が高いぞ!!」

青年はマリアを叱り付け、マリアは言われるままに膝を着いた。

「あの…」

気まずくなったフリルが言葉を絞りだそうとすると青年はクワッと顔を上げフリルを見上げる。

「何なりとお申し付け下さい!」

そんな返答にフリルは頬を掻きながら顔を背ける。

「あたしはフリルといいまして…ヴァネッサはお母さんです…」

その言葉に青年はキョトンとする。

「へ?」

そうして――

「はっはっは!失礼しました、わたしはてっきりヴァネッサ様がこの村へお帰りになったのだとばかり」

席に着いたフリルは青年と向き合い、青年は村長らしい顔立ちに戻る。

「わたしはこの村をまとめる【ケイ・リィ・オス・キャネディ】と…長いのでケイオス呼んで頂きたい」