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アグネシア戦記【一巻-三章】

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「えっ…」

少女は痛みで冷や汗を流しながらもフリルの言葉を理解出来ずにキョトンとして見つめていた。

「回復の魔法とか使えば?って…痛々しいから」

そこで少女は意味を理解したように動揺した。

「ばっ!!馬鹿ですか!?回復したら…またあなたがたに襲いかかりますよ?」
そういって睨みつける少女に対して、平然とフリルはダルそうに目をしかめる。

「別にいいよ?そしたらまたたたき伏せるだけだし…」

そうフリルは手をヒラヒラと振り、少女は戦意を喪失したように呆れ顔をすると手を患部に当てた。

「【レイヒール】…」

少女の呟きで指先が光り輝き、痛々しく赤く膨らんだ右足の腫れが少しずつ減っていく。それに伴い麻痺していた痛覚が再生とともに痛みにかわって少女の身体に沸き上がる。少女は歯を食い縛った…失禁してしまうのではないかと思う程の激痛…それが過ぎた時、少女は再び地面に崩れた。

「治りました?」

「お、マジで治ってるな」

覗いていたグリフォードとラルフがそれぞれにつぶやいた。

「あんたら…」

フリルはわなわなと震えながら二人を睨んだ。

「さっさと準備しろ役立たず〜!!」

フリルは暴れて二人は雲の子散らす勢いで逃げて行った。

「で、まだやる?」

二人を追い払ったフリルは地面に横になったままの少女に顔を向けた。少女は呆れたように首を横に振る。
「そう…それにしても、あたしの部下二人を簡単にあしらうなんて、あなたやるじゃない!」

フリルは興奮したように顔を寄せてきた。

「え?…ああ…ど…どうも」

少女はどう反応したらいいか戸惑い、顔を反らした。しかしフリルは気にしていない。

「あなた!聖騎士団にはいりなさい!!」

突然そんな事を言ってきた、少女は慌てて首を横に振る。

「な!なに…いえいえいえ!!!わたしには村を守る義務とかもありますから!!」

その返答にフリルは残念そうにため息を吐いた。

「まあいいわ、案内して?ウィプルに」

少女は一度迷ったような表情を浮かべる。

「勘違いしているようだけど、あたし達は魔王とかとは違うわよ?」

そういわれると少女は顔をしかめる。

「…都市に出た仲間から聞きましたが、現在のネビル・アグネシアにあなた方のような人は確認されていません」

そう言って立ち上がるとフリルから離れ、まだおぼつかない足取りでヨロヨロと距離を取る。フリルはそれを見ると大きなため息を吐き出して戦闘前投げ捨てた大きな背納に歩み寄る。


「随分な荷物ですね…何が入っているんでしょうか?」

少女は警戒したまま興味深そうにフリルを見つめる。

「フレグニール様からよ。ウィプル村に、お酒代金として甲殻や鱗を届けてほしいってお願いされてね」

フリルはそう言いながら自分の背納の口を開けて、中に詰められたエメラルド色に輝く甲殻を少女に見せた。

「もしかして…村のために額に汗してまで持ってきて下さったあなた様方を…わたしは襲ったのですか?」

少女は小さくそう聞くと、フリルは涼しげに頷いて背納を背負った。

「まあ、そうなるわね〜」

それを聞いた少女は肩をガックリと落とす。

「スミマセンでした…」

「で、案内はしてくれるかしら?」

フリルは少女の謝罪を待たずに余程重いのか足がプルプルと震えている。

「…あ、案内します」

少女はそう告げるとフリルの後ろに回り背納を支える。

「…まだわたしは名前を言っていませんでしたね」


少女は、初めて邪気のない笑顔を、フリルに向けた。
「わたしはマリアント・フローレス・ファン・エステリーゼ…と、長いので【マリア】と呼んで下さい」

マリアはそう、フリルを見る。

「マリアね」

フリルはそう言いながら、まわりで休んでいたグリフォードとラルフに指を差した。

「あのむさいのがラルフで、冴えないのがグリフォードよ」

マリアはフリルの指で二人の男を確認する。

「で、あたしはフリル」

フリルは最後に自分の名前を言った。

「さあ、早く案内して?日が沈む前には着きたいわ」

するとマリアは荷物に手を触れたまま。

「【ハーフ・チェンジ】」

フリルは途端に背納が軽くなった。

「お?」

フリルは唖然と声を上げると背筋をシャキンとのばした。

「ぐああ!!」

「ぬ!ぬふう!!」

するとグリフォードとラルフが地面に倒れ這いつくばる。

「?…何したの?」

そんな二人を見てフリルは首を傾げながらマリアに顔を向ける。

「はい、重量を仲間に寄付する魔法です。あなたのような小さな女の子にこんなに荷物を持たせるなんて外道もいいところですよ?、苦しみを味わうべきです。」

マリアは冷たい笑いを浮かべて、背を向ける。

「村はまでは此処から少し歩きます、ついて来て下さい」

そのまま歩きだし。フリルは後を追いかけ隣に並んだ。

「あなた、やっぱり聖騎士団に欲しいわ!」

フリルにそう言われるとマリアはフリルに目を向ける。

「聖騎士団?」

マリアは物珍しい言葉に首をかしげた。するとフリルはよくぞ聞いたとばかりに平らな胸を張る。

「そうよ!ゲノム王国の騎士団でね!あたしは隊長なのよ!」

自慢気なフリルは容姿も仕草も子供そのものだった。

「まあ、立派なんですね…まだ若いのに」

「若くない!もう13だよ!?」

若いという言葉にフリルはムッとしていた、マリアはクスクスと肩を揺らして笑うと、フリルの頭に手を当てて撫で撫でした。

「…えへへ〜」

すると、フリルは今までが嘘のように顔を笑顔にする。

「か…可愛い…」

マリアはそう小さく呟き、フリルは首をかしげた。

「コホン…それで?フリルちゃんは何をしにウィプルまで?」

マリアの問いかけにフリルは自信に満ちあふれた目で、マリアを見上げた。

「魔王は知ってる?」

その言葉に、マリアは顔を顰める。

「魔王…ジョージ・アレキサンダーですね?…」

マリアは深刻そうに聞き返し、フリルは大きく頷いた。

「そう、その魔王軍がいま調子に乗っててね?…一泡吹かしてやろうと思ってさ、魔法使いを勧誘しに来たの」

フリルはストレートにそう言うとマリアは首を横に振る。

「魔法使いは戦争の道具にはなりませんよ?」

フリルはマリアに再び向き直る。

「道具にはしないわ」

そう、自信満々に呟いた。マリアはそんなフリルから目を背ける。

「信用出来ません」

そして、空を見上げる。

「近頃、魔王軍がこの森に頻繁に出入りしていて…村の近くまで来たこともありました…」


マリアは憎しみ籠もったような口調で唇を噛む。

「何時もは姿を曝さずに倒し、獣達の餌にしてしまうんですが…一度だけ姿を晒した事があるのです…その時も彼らはあなたと同じ事をいいました…」

再びフリルへと顔を向け、今度は殺意を込めた視線を真っ直ぐに向けた。

「教えて下さい…あなたと彼ら…どう違うのですか?」

するとフリルは小さくため息を吐き出した。

「大違いよ、彼らは道具として魔法使いを使う。あたしたちは同じ聖騎士団として、背中を預ける仲間が欲しいの」

フリルはそう言って腕を頭の後ろへ組んだ。