アグネシア戦記【一巻-三章】
「天界は災厄に滅ぼされたけど天界の英雄は生きててね…三人の英雄は互いに手を取り、災厄を追い払いアグネシアはすくわれたのよ…」
そこでグリフォードはハッと目を見開く。
「もしかして…英雄とは!?その時の!?」
グリフォードの言葉にフリルはうなずく。
「そうよ、人界の英雄」
「【名も無き英雄】が…あなたの母親だというのですか!?」
グリフォードは驚きのあまり声を荒げていた。
「あり得ません!数千年前の話ですよ!?」
それを聞いてラルフもうなずく。
「これは…物語になっていない話し…五つの首の災厄は追い払われる直前。人界と天界の英雄に呪いをかけたのよ…天の英雄には不死と不妊の呪い、人の英雄には不老と不死の呪い…どちらも酷い呪いよね…」
フリルはそう微笑み、グリフォードに目を向ける。
「ではあなたは…名も無き英雄の子孫…なのですか?」
その問いにフリルは頷いた。
「大抵は嘘だとか言われて信じてもらえないけどね…」
「いや?」
そんなフリルの苦笑にラルフは否定する。
「これで、俺達すら知らなかった。魔法使いの存在を知っていた事や帝龍なんかのはなしとのつじつまは合うな」
ラルフは納得したようにそう告げた。
「ん?…」
すると突然ラルフは立ち止まった。
「なによ?まだなんかあるの?」
フリルは不機嫌そうに振り返りラルフを睨んだ。しかしラルフは辺りをキョロキョロと見回している。
「なんか…見られているような気がしないか?…」
ラルフの言葉にフリルとグリフォードは足を止めて辺りを見回す。
「なにを馬鹿な事を!わたしは何も感じませんよ?」
「黙りなさい」
何かを察したフリルはグリフォードを黙らせてラルフに向かって口元に人差し指を持っていき、そののちに手を下に仰いだ。『静かに身を低くしろ』という合図である。グリフォードとラルフは指示されたように身を低くし、低くなったところでフリルは手を開いて見せ。『そのまま待機』という合図を出してフリルはゆっくり地面から小石を拾いあげ、息を飲む。
「そこだ!!」
石は真っすぐに木の上に飛んでいき、目標である偵察者に向かい飛んでゆく。
シュボッ!!――しかし投げられた小石は、一瞬にして蒸発した。
「ウィプルの魔法使いね…」
フリルが言うと真っすぐに木の上を睨み付けた。そこにはフードで顔を隠した小柄な人間がいた。身体には緑や茶の色をちりばめた迷彩色のマントを上から羽織り真っすぐにフリル達を睨んでいた。
『アナタガタノスガタハミエテイマス、シニタクナケレバスグニタチサリナサイ』
森の中を透き通るような少女の声が響く、それを聞いてフリルは立ち上がり、余裕な笑みを浮かべた。
「ご忠告ありがと〜。でも駄目ね〜そんなふうに止めちゃ〜…すぐそこに村がありますっていってるようなもんよ?」
『!?』
木の上の少女は、わかりやすい動作で動揺を表した。
「あら?、図星?わかりやすいわね〜」
フリルの問いかけに少女は動揺したような仕草から一転し、一気に殺意が空気を歪めていく。
『ワカリマシタ…ナラバココデイノチヲチラシナサイ!!!』
「散解!!」
フリルの一斉でラルフとグリフォードは鞄を捨て、バラバラに散らばる。
「【ラ・ボンバーム】!!」
少女は木の上より手をかざし、手から現れた光弾を地面に向かって放つと、今まで三人がいた地面に激突し、そこから激しい爆発がまきあがる。同時に木の上の少女はマントを脱ぎ捨て降って来る。
「そおらあ!!」
そこに待っていたとばかりにフリルは回し蹴りで真っ直ぐに降りてきた少女を迎撃しようと振るう……しかし少女は避ける事無く左手を真っ直ぐのばして開き――
「【ディフェンサー】!」
フリルの回し蹴りは突如少女が手から出した光の結界を直撃し防がれる。
「あ!やばっ!」
フリルはそう顔を引きつらせると、少女は伸ばした左手をピストルのような形をを作り、体を右に捻りフリルの身体をまわしながら――指先を無防備となったフリルのわき腹へ向けた。
「【スパークウェブ】!!」
――少女の指先から風が生まれ、それは弾丸となりそ凄まじい殺気と共にフリルのわき腹に突き刺さる。
【ドォッ!!】
「あっ!!」
フリルはわき腹を抉られる痛みに悲鳴をるまもなく地面へとたたき落とされた。
「隊長!?己!!」
グリフォードは素早く鞘から剣を抜き放ちながらレイヴンを纏わせ、音速の速さを持った居合いの剣が少女の身体に迫る。
「!」
少女はあまりの速さに動揺するも軽やかに身を引いて横なぎを避ける、しかし反応が遅れたのかフードが切り裂かれ、頬から血を飛ばしながら地面へと着地する。
「ち!」
少女は舌打ちするよりも早くグリフォードは二度目のは目に止まらない程に早い一撃を少女の身体に向かって振るっていた。
「【インスペクト・アイ】」
しかし少女瞬く間に反応速度や反射神経を向上させる魔法を完成させ、グリフォードの剣を目で追いながら身を引く事で追撃を避ける。
「な!」
避けられた事にグリフォードは驚きの表情をし、少女はその時には既にフリルを迎撃したスパークウェブをグリフォードの顔に向けていた。
【ドゥン!!】
放たれた風の弾丸にグリフォードは素早く反応し、返して戻した剣の腹で弾丸を受けとめる。
【ガィイン!!】
想像を超える凄まじい威力を持った一撃はグリフォードの剣に金属的悲鳴を挙げさせその衝撃は震動となり利き手を痺れさせ反応が遅れる。
「なにやってやがる!」
そこに見かねたラルフが飛び込みグリフォードと少女の間に割って入り込むなりとび膝蹴りを放つ。
「無駄な事を…【ディフェンサー】!」
少女は素早くフリルの攻撃を防いだ光の結界を展開しラルフの一撃を防ごうとした。
「どっちがむだかな!!」
ラルフのレイヴンは触れたものを爆発させる能力、そのちからをラルフは至近距離であるもかかわらず解き放った。
【ズォン!!】
凄まじい爆発が弾け森に轟音が響く。しかし
「な!!」
声を挙げたのはラルフ、それもそのはず、少女は右手から展開した光の結界により全くの無傷だったのだ。
「それで全力?たいした事ありませんね…」
少女はグリフォードとラルフを交互に見て挑発をして余裕の笑みを溢した。グリフォードとラルフは曲がりなりに訓練された人間でありこんな安い挑発には乗らない。
「厄介だぜ…」
ラルフは目の前の少女の戦闘力の高さに嫌な汗をかいておりしきりに手で拭う。
「隊長は!」
グリフォードはフリルの落下地点に目を向けると、そこには小さなフリルがうつ伏せで倒れている姿があった、ピクリとも動かず生死の判断はつかない。
「く…」
グリフォードは覚悟を決めてラルフにアイコンタクトを送る。それは同じ多重に攻めるという彼らなりの合図だった、先に動いたのはグリフォード。
「おおおっ!!」
グリフォードは右足強く踏み込みながらも一気に身体を前に出し身体をぶつけるかのように少女の身体に肉薄しようと迫る。
「浅はか…」
作品名:アグネシア戦記【一巻-三章】 作家名:黒兎