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アグネシア戦記【一巻-二章】

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「取り敢えず、この洞穴の奥に泉があるから疲れと汚れを落しましょ?」

そう言ってフリルは洞穴に入っていき、グリフォードとラルフは後を追う。洞穴内部は非常に大きく、天井までは100mはあり、横幅も同じくらいであった。グリフォードは剣の柄を握り締め、いつ襲われても反撃出来るように警戒して気をはる。しかしフリルはそんなグリフォードの前をなんの警戒も無しに歩き続ける。

「そんなに気をはってもいきなり襲ってくるようなのはここにはいないわよ?」

そう自信満々にフリルに言われ、グリフォードは信用して緊張を解いた。

「多分だけどね…」

ズカ!とグリフォードとラルフは同時に転けて倒れる。

「多分ってなんだ!多分って!!」

ラルフが怒鳴りながら詰め寄り、大声は洞窟内で反響してしまいフリルは両耳を塞いだ。

「煩いな〜大声あげないでよ!」

フリルは若干感に触ったのか頬を膨らませて反響しないていどに言い返す。

「でも、警戒していないのとしているのとでは危険性は変わります…お願いします…はっきりして下さい。」

グリフォードのもっともな意見を言われてフリルはふてくされたような表情を浮かべる。

「はっきりしろったって!…し…仕方ないじゃない、あたしだって話ししか聞いてないんだか…」

フリルは弱みを突かれたかのように身動ぎ、自信なさそうにもじもじとしだした。

「なんの疑いもしないで信じたのか!!?、嘘かもしれないだろうが!!」

そこでラルフはここぞとばかりに詰め寄り、それを聞いていたフリルの瞼にじわじわと涙の粒が溜まっていく。
「え!あ…いやその…」

元魔王軍のラルフと言えど、子供を泣かすというのは抵抗があった、目の前のフリルは今にも泣きそうな素振りを見せていた。

「いや!悪い!謝るから泣くなっ……」

【ドガァッ!】


慰めようとした次の瞬間、ラルフの股関をフリルの爪先が強力に突き上げ、ラルフは何ともいえない苦痛に声にならない悲鳴をあげながら、体をくの字に曲げて股関を押さえながら地面に倒れた。

「うっさいバカ!あんた達は黙ってあたしについてくればいいのっ!!間違ってなんかいないんだから!!」

蹴ったフリルは全く反省の色など見せず、頭から湯気がでそうな程に真っ赤になって唇を尖らせると、そのままラルフをその場に放置してズカズカと歩いて行ってしまう。

「くそっ…あのガキィィ…」



地面に伏せたラルフを隣にいたグリフォードが手を貸して起こす。

「まあまあ、隊長は口より先に手が出る人ですから…」

グリフォードは何処か涼しげにしている。

「テメェ…知ってて…」

そう睨まれたグリフォードは、目を細め肩を竦める。

「はて?、なんの事でしょうね〜…」

そうとぼけたグリフォードにラルフは一撃お見舞いしてやろうかと考えたが、そこにフリルの声が響く。

「さっさとついて来なさいよっ!!おいていくわよ!?」


そうしてしばらく歩き続ければ、程なくしてフリル達は更に広い場所にでた。

「不思議な場所ですね…」
グリフォードはそう洞窟内を見回して呟いた。ここは洞窟の中央らしいが、地面には枯草がまるで寝床のように敷いてあり、岩壁中にエメラルドのような緑色の輝きを放つ物が張り巡らされていた。

「おいグリフォード!」

ラルフはグリフォードを手招きで呼び寄せると、岩壁に付いた一つのエメラルド色のそれをつまみとった。グリフォードはそれを横から覗き込む。


「鱗…ですか?」

ラルフは頷き、洞窟内の岩壁に目を向ける。

「これは竜の鱗だ…」

ラルフの呟きにグリフォードはブッと吹き出した。

「り!!竜!?それじゃあここは!!?」

グリフォードが声を挙げようとしてラルフは指を立ててグリフォードを制止させる。

「間違いねえ、竜の寝床さ…しかもかなりデカイぜ?…」

それを聞いてグリフォードは身を寄せる。

「だから隊長は…警戒する必要がないと言ったんですか?」

「ああ…だろうな…」

ラルフはそう頷くと、背後のフリルに目を向ける。フリルはというと…。

「ここは寝床?…なら、やっぱりここで間違いないわね…あとは〜…」

乙女ならば「綺麗〜」等と目を輝かせるであろう空間だが、この小さな隊長には神秘的な場所などその辺の雑草程の価値としか感じていないようで、竜の寝床であるというのに危険と感じる気配もないように、目線を泳がせ何かを探している。


「あったあった!」


フリルの目当ての物がみつかったようで開けた場所の隅に向かって走って行く、二人がそれを追い掛けると、そこには小さな祠があった。フリルはその前にくると背納を下ろして中から酒の瓶を四本取り出し、祠に供えた。それは出発の前にフリルが買っていた物である。

「そんな所に供える酒なのかよ…勿体ね〜」


グリフォードと共に左右から覗き込むと、ラルフはついそう漏らした。ラルフは酒には詳しくないが、銘柄と価値にはそれなりに知識を持っている…そこに供えられた物は全て高級な酒ばかりだったのだ。フリルはそんなラルフの問に一言。

「盗んだりしたら殺されるわよ?」

そう背中を向けたまま告げた。

何に?…そう思ったつかの間、強大な風と轟音が洞窟を貫いて響き渡ると、それを受け、フリルは嬉しそう振り返り片膝を立てた姿勢になる。

「お初にお目にかかります。」

その言葉にグリフォードとラルフは驚くと共に、背後から漂ういい知れない気配にゆっくり後ろを振り返る。目線に入ったのは巨大な顔、人間の物ではない、それは―。

「「ドラゴン!」」

グリフォードとラルフは振り返りながら互いに武器を抜こうとする。

「止めなさい!」

フリルの見事な一喝は二人を一瞬で制止し、膝を折った姿勢のまま頭を下げた。

「貴方たちも膝をつきなさい!…この度は、仲間の者のご無礼お詫びいたします…風帝龍【フレグニール】様」


「み!…帝龍!?」

フリルに怒鳴られた二人慌てては同じように膝を折る。帝龍とは、この星を作り続ける最高位の生き物であり、その存在は神に等しい。フレグニールと呼ばれた巨大な龍は蛇のような体をクネクネと動かし、その黄金の眼でフリルを見下ろす。

『良イ、ソノ方、頭ヲ上ゲヨ…』

頭の中に響き渡る気品あふれる女の声。許しを得たフリルは顔を上げる。
『何ト!英雄デハ無イカ、ソウ改マル必要ハナ…』

「フレグニール様、わたしは英雄ではありません、その娘のフリル・フロルと言います、こっちはグリフォード・ロベルトとラルフ・ブラッドマン、わたしの仲間です」

それを聞くなりフレグニールは口元で髭をゆらゆらとゆらしながら大きな眼を見開く。

『ホウ、ソチハアノ英雄ノ子カ…道リデ似テイルト思ウタ…コレハコレハ愉快ジャノウ』

フレグニールは巨大な体をうねらせてケタケタと笑うような仕草をしてから再びフリルに眼を向ける。

『シテ、英雄ノ子ヨ…ソナタ等ハ何ヲシニ此処へ来タノダ?』

フレグニールは本題を聞き出そうとした問いにフリルは含み笑いを浮かべ即座に答える。