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アグネシア戦記【一巻-序章】

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グリフォードがフリルを紹介する前にアグネシア国王はフリルに抱きついていた。そして間髪入れずにその両手がフリルのお尻を撫で回す。

「うむ、わしを思い、捕虜か娼婦を連れてきてくれたのだな!? 流石はグリフォードじゃ! 発育は悪いがなんとも愛らしい幼子じゃ〜」

我慢の限界だった…フリルは右手をアグネシア国王の胸に這わせ。

「?」

アグネシア国王は手を止めてフリルを見下ろす。

「気安く触んないでよ」

フリルは言葉と一緒に胸を軽く押した、するとアグネシア国王の体に馬に跳ねとばされたような衝撃が直撃し、軽々しくぶっ飛んで玉座に直撃…玉座ごと浮き上がりそのまま転がる。

「はあ…」

ため息はグリフォードのものそれもつかの間。

「き!貴様敵のスパイだな!」

「ええい!討ち取れい!」
アグネシア王の取り巻きが思い思いに叫べば、扉の外で警備していた衛兵が慌てて飛び込んで来た。二人の衛兵は片手にシールド、片手にハルバート、重装備の甲冑という定番な装備で襲いかかって来た。フリルは振り向き様に得意の回し蹴りを目の前の空間に放つ―その刹那、蹴に叩かれた空間は弾丸となり駈けてきた衛兵の一人に直撃―フリルの不可思議な攻撃を受けた衛兵は見事に尻餅をつき、無傷の衛兵は何もわからずに動きを止めてしまう。

その間にも尻餅をついていた衛兵の顔面にフリルの飛び蹴が突き刺さり、衛兵はブリッジするように仰け反ってハルバートと盾を宙に放り出す。フリルはハルバートを空中で右手で掴むと。
「ワトソン!!」

無事な方の衛兵は慌てて倒された衛兵の名前を呼ぶ…がその間すらもフリルに隙を与えてしまう。彼が気付いて身構えた時には、すでに両足をハルバートの持ち手で払われて宙に浮いていた。そして次の瞬間には追い討ちの右足横蹴りが彼の腹部に突き刺さり、わけもわからずに壁の方まで飛んでいった。

「まったく…」


フリルはため息混じりに乱れた髪を片手で弾いて整え、ハルバートを床に捨てて元いた立ち位置に戻る、目の前には既に立ち上がり身構える国王とその連合軍指揮官達の姿だった。

「きっ!貴様っ!貴様の目的はなんじゃ!?」


アグネシア国王は恐る恐る聞く。

「そうね、暴君ジョージ・アレキサンダーの打倒と彼の植民地の解放、戦争の早期終結の3つ位かしら?」

フリルは至って冷静に淡々とのべていく。

「ま!!待て!お前は何を言っておる!?」

アグネシア王の動揺した叫びにフリルはただキョトンと首をかしげていた。

「あなた達は、勝てないと思うんですか?」

指揮官達は各々に顔を見合せる、そんななかで一人が手をあげた。

「国民の血が流れるくらないなら…わたしは逃げたい…」

フリルの顔を見ずに俯いたままの気弱そうな青年だった。

「エリオール王子は黙って頂こう、ここは敗残国の王子が口を出すべき場合出はないのだ」


エリオール王子は指揮官達に黙らされて床にへたりこんだ…が、しかしフリルは違う反応を示した。フリルは彼の前に行きその膝を折る。


「同感です、エリオール王子…」

フリルはそうしてエリオールの手を取り、同じ目線の高さで見つめた。

「君…」

エリオールは初めてフリルの顔を見た。そこでエリオールは驚きに目を見開いた。フリルの顔は、かつて自分の愛した少女にそっくりだった。

「フィ…!?」

「決めました!!…わたし、フリル・フロル及びグリフォード・ロベルトは貴方に従います…」


エリオールが言葉を口にする前にフリルがとんでもない事を口走った。当のグリフォードは…いや、その場にいた者の全てが驚きに目を見開いていた。

「君は!…君のような少女を私の配下に置くだって!?無理だ…わたしには兵士を持つ資格なんてない、一国の王になる素質なんて私には…」

エリオールは目を背けて俯いた。しかしフリルは聞こえないというように顔を寄せて笑顔を溢す。

「滅んだお国の名前を教えて下さい」

その笑顔にエリオールは負けて頷いた。

「ゲノム王国…」

それは小鳥の囀るような消え入りそうな声だった。指揮官達の中には顔を背け、笑いだす者がいた。しかしフリルはその名を受けて決意を決めて立ち上がる。

「ならば、その国をわたしの力で再建しましょう…わたしとグリフォードはこれより!ゲノム国王軍の兵士としてこの戦線に参加いたします…」

「な!!?何を勝手に!!」

叫んだのはグリフォードの上官であろう、エリオールもそんなフリルを唖然として見つめていた。しかしフリルは一切を無視して再び膝を折る、そんなフリルにエリオールは周りからの視線に曝されておろおろし、終にはグリフォードに目を向け。

「し!!しかし、君はともかく、グリフォードは無理だろう?彼はアグネシアのエースだよ?、それは彼に言ったのかい?」

ごもっともだ、エリオールの言葉にグリフォードはそう心の中で呟き苦笑した、しかし何故フリルがこの気弱そうな人間に従う気になったのかもなんとなくだが理解することが出来た。そしてグリフォードも決意を固めて剣を抜き放ち、フリルの横に膝を折る。

「迅雷、グリフォード・ロベルトは先程フリル・フロルと私闘した結果、敗北いたしました…故にアグネシア大隊の隊長を務める資格はありません、わたしはこれよりフリル・フロル隊長の指揮下に入ります」


「じ!!迅雷!?貴様ァッ!?」


叫んだのはグリフォードの上官だった者であろう、しかしグリフォードは無視して続けた。

「わたしは直に隊長の力を見ています、王子…わたしには隊長の言葉が子供の寝言には聞こえません、この人は間違いなくこの戦況を覆す力になるでしょう…」

そこまで言われたエリオールは、グリフォードとフリルの二人を交互に見つめて盛大なため息を吐く。そして決意を決めて真剣な顔立ちになる。

「フリル・フロル、グリフォード・ロベルトの両名をゲノム国王軍聖騎士団として認め、今後の戦線での独立行動を許可する」

エリオールは苦笑しながらも初めて二人に笑いかけた。

「へ?…せいき…なんですって?」

フリルは首を傾げてグリフォードに聞きなおす。

「聖騎士団さ、ゲノム軍兵士じゃ閉まらないだろう?」

エリオールはそんなフリルにそう付け足すとフリルの両手を握り反した。

「嫌かい?」

その言葉にフリルは目を輝かせ首をブンブンと横に振る。

「いいえ!かっこいいです!!聖騎士団よ!?ねえ!グリフォード?」

フリルは大はしゃぎで立ち上がりグリフォードに振り返り、グリフォードは苦笑を浮かべたまま頷いてから互いに一礼して立ち上がる。

「ではエリオール王子、わたしは早速敵の陣営を強襲して来ます。吉報を期待してお待ち下さい…。行くわよ!グリフォード」

フリルはそう言っては背を向けさっさとそこから出ていってしまった、唖然としたアグネシア連合の面々の中でグリフォードも同様に唖然としていたが、あわててフリルの後を追った。

「強襲って、なにをするんです?」

向かった先は国を見渡せる高台、フリルは望遠鏡を使い何かを探している

「隊長?」

グリフォードの二度目の問い掛けにようやく気が付いたフリルは望遠鏡を顔から放す。