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アグネシア戦記【一巻-序章】

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グリフォードと名乗った少年は。そのまま自らの分身である剣を、ゆっくり構えを形作ってゆく。

「参っ…!!」

踏み込もうとした時にはフリルの爪先が頬に迫っていた。それはオースチンを一撃で葬り去った空中回し蹴りである。

【ギィイン!】

雷鳴の如く打ち込まれた爪先と共に弾け響く凄まじい金属音。グリフォードは剣を横にして剣の腹でもってフリルの回し蹴りを受けとめていた。本当ならばその刃で斬り払えた。が、しかし、そもそも実戦で剣を持っている相手に生身の人間がこんなに見え透いた回し蹴りで蹴りに来るなんて事は普通ならあり得ない、そんな事を出来るのはレイヴン使いか余程の命知らずだけだからだ…何故か。後所ならば簡単である。この少女の足をそのまま切り捨てて勝負あり。しかし…もしも前所であるならば。刃で切り払うのは不可能だろう。なんらかのレイヴンという不思議な力を帯びており、それが武器を破壊する程の能力であるというのならば…武器を破壊する事が目的だったのならば。剣の刃とは非常に脆く下手に重い攻撃を受ければ容易く削れてしまい。下手をすれば折られてしまう可能性があるからだ。剣を失えばグリフォードに勝機は完璧に無くなる事など目に見えた事実である。そしてグリフォードはフリルをなんらかのレイヴン使いに間違いないと踏んでいる。そのためフリルの奇襲に対して防御を優先した。


「かたくるし〜自己紹介ありがと〜、だけどそうゆう隙だらけなのは良くないわ…ね!!」

【ドゥン!!】

響く轟音…その直後、グリフォードの剣に少女のものとは思えない重い衝撃が走り、グリフォードの右腕は剣ごと右方向に弾かれ身体を無防備に曝してしまう。

「な!?…」

しまった…心の声が聞こえそうな程に、唖然とした口を開けたグリフォードは弾かれた剣を顔で追い掛けてしまうという初心でありながら戦場では決してやっては行けないミスを犯してしまう。その刹那、フリルは瞬時に次の体勢に入っていた。空中で一度回転するかのように、そのまま左足を真っ直ぐ前に突き出すという見てくれは綺麗な蹴り技だった。普通ならば見掛けの身軽そうな少女のそんな芸当など威力にすらならない。グリフォードの目からもそれは確かである、が、しかし

【ドン!!】

「!!!?」

凄まじい轟音と共に、グリフォードが気付いたのはフリルの左足が腹部を抉り、馬に跳ねられたような凄まじい衝撃で内臓を強打されてぶっ飛ばされた後だった。

「ガはッ!!?」

グリフォードは柵に背中をぶつけ、弛んだ柵に弾かれて激しくたたき飛ばされフリルの前で倒れこみ、後から激痛と共に肺に溜め込んだ酸素を吐き出してしまう呼吸困難が襲い掛かり、込み上げる嘔吐感だけは意地で堪えてフリルを睨みつけながら自分の二つ目の致命的なミスを確認させられてしまう。一度見ているフリルの能力を甘く見過ぎた事である。

「あら…この程度?、なっさけ…」

そんなグリフォードの心の中の葛藤などフリルは知る由もなく、既に勝った気で余裕を表した挑発をしていた。その瞬間、既にグリフォードのフリルの下半身から顔へかけての剣撃が迫って来ていた。

「!?」

フリルは咄嗟に反応して腹をへこませる要領で後ろに身体を無理矢理に引かせる事で、剣に服を横一文字に斬り裂かれるだけに止める事が出来た。

「だあ!!?この服たかいのよ!!」

フリルはそういいながらもその瞳は、自分の服を切り裂いた一撃のあまりの速さに対する動揺をで揺れていた。


「外しましたか…」

一方のグリフォードはまだ腹部に相当なダメージがあるようで。苦悶に顔を歪めながらも剣を構え直してグリップを確かめ、一歩踏み込むと同時に攻撃をはじめる。

『剣が見えない…』フリルはその目で、剣ではなくグリフォードの腕を見ることで見えない剣撃を服を擦らせるギリギリで避けながら、グリフォードの動作や癖を頭に入れていく。

「凄いですねお嬢さん!私の剣技をここまで避けれたのはあなたが初めてですよ!!」

確かに剣を振っている。しかしフリルには微かにしか見えなかった…早すぎるのだ。これは不味いと感じたフリルだったが。グリフォードは正直な性格らしく答えをあっさりと吐いた。それが失敗であるとも考えずに。

「わたしは剣を振る速さを自在に操る能力【剣速】を持っているのですよ! だから!こんなことだって!!」

グリフォードが左足を強く踏み込み、右腕を身体が曲がる程に大きく引きつける。

『突き!?』フリルは咄嗟に身を右向きに半身になりながら仰け反らせる。

「【レイブン・ミストルティン!!】」

フリルの対応と同時に目に見えない必殺の連続突き技が襲いかかり、フリルの服は所々切り裂かれ切り裂かれた皮膚から血が伝う。

「いっ…痛いじゃない…」

浅く斬られた頬を手で拭いながら赤い血を見てもフリルは冷静に頭を回転させては、グリフォードの言葉を思い出す。【剣速】を操れるというのはどれ程の速さまでなのか?それはどの程度の集中が必要なのか?どんな精神状態のときに使えるのか?、そしてフリルは最初の一撃を放たれたときを思い出す。なぜかれはあの時自分の腹を切り裂け無かったのか?その疑問にぶち当たる。そして答えも自ずと見えてきてしまった。彼は苦痛的何かが残っている間は剣速を扱い切れないという答えにいきつく。そして速くグリフォードを倒さねばならないという懸案事項も生まれてしまう。

『ダメージが残っている今の内に!』

フリルは心の中で叫び、距離を取り相手の動きを見つめながら身構えた。

「へえ…わたしのレイヴン・ミストルティンを受けてかすり傷だけですか、素晴らしい!」

グリフォードはフリルの動きに感動したように鑑賞に浸ったように声を荒げ、狂気にもとれる笑みを浮かべたまま、再び身構え一歩前に踏み込んでフリルとの距離を詰める。

「ですが!次は当てますよ!!!」

そして再び【レイブン・ミストルティン】の構え。しかし彼は再びミスを犯した、それは…一度見せた技をもう一度フリルに使ったという…初歩の初歩なミスだった。そんな構えを見せられたフリルの行動は素早く、その身体はそれよりも早く接近し…。

「【レイブン・ミストルティン!!】」

音速の連続突き、それはフリルの体を貫いた…かの様に見えた。

「バ…バカな!」

しかし唖然とした声を挙げたのはグリフォードだった。レイブン・ミストルティンは接近したフリルの左手に手首を握られた事により、最初の一回すら許されずに止められていた。

「つ〜かま〜え…た!!」
フリルはニンマリと笑うと、次の瞬間にはグリフォードが反撃に思考を切り替えるなどの一切を許さず、剣を握った手首を回すように捻りながら引き込んだ。

「ぐあああ!!」

グリフォードは、その不思議な掴み技に動揺するよりも早く、余りの激痛で剣を掴んでいられずに取り落としてしまい、左手でフリルの手を掴んでまるでお仕置きを恐れて逃げようとする子供のような何とも無様な格好で、その手をとり外そうとしながら。ついには地面に膝をつく。そうして気付いた時には自分の目の前に拳を作った左手を置かれていた。

「チェックメイト」