DESTINY BREAKER 一章 2
『悪いことをしたと思ったら、いいことをしなさい。それでプラマイゼロ(プラスマイナスゼロの略)。』という草薙家の家訓(先代からの教えらしいのだが何故横文字)は、いまだ健在のようだ。まあこれでは怒られる原因を作ったわたしが結果的にいちばん得していることになってしまうが、とにかく夏樹がいつもの笑顔に戻ってくれたのでよかったと少し安心した。
ちなみに夏樹がこの時期になると毎日使い捨てカイロ(何故か未使用)をたっぷり制服に忍ばせていることはクラスの中でも桜花しか知らない夏樹の小さな秘密である。
「冬といったらコレだよね桜花ちゃん。」
「うん。そうだね。」
とはいっても夏樹の場合『冬といったらコレ』のコレがいったい他にいくつあるかはあえて問うまい。すなわち夏樹は純粋に季節というものを楽しめているようで、たまにその無邪気さが羨ましいことがある。なぜならこの笑顔には喜び以外が含まれていない。
だから羨ましく思うのだ。この眩しすぎるほどの笑顔が。
だから思ってしまうのだ。
『私はうまく笑えているだろうか。』
そう思ってしまうのだ。
「・・・かちゃん?ねえ?」
声が聞こえ桜花は我に返った。
「・・・ごめん、ちょっと考え事してた。」
「大丈夫?気分が悪かったら保健室に行く?一緒のベッドで寝る?うん寝よう!」
夏樹の目はキラキラと輝きを放っていた。最期に断定されていたところが気がかりである。
「・・・・・・大丈夫だよ、ナツ。ホントにちょっとした考え事だから。それよりどうかしたの?」
何かを話している途中だったようなので桜花はそちらに話題を変えることにした。
「残念・・・じゃなくて、えっと・・・、そういえば朝のニュース観た?」
先刻よりもわずかに自分との距離が接近していた夏樹が唐突に聞いてくる。
「わたしは朝のニュースなんて観てたら学校に遅刻しちゃうからここ1年くらい休日以外は観てないよ。」
家が遠いからねと軽く笑顔をつくり、なんで?という風に桜花は小首をかしげながら夏樹のほうを見た。
作品名:DESTINY BREAKER 一章 2 作家名:翡翠翠