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つだみつぐ
つだみつぐ
novelistID. 35940
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ひとつだけやりのこしたこと

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それから10日ほど過ぎて
「さとみ。昨日はどうだった?ケンちゃんとのカラオケ。」
そう聞いた時、さとみはすぐには答えなかった。
「・・・うん。すごく楽しかったよ。いろんな話もした。それでね、ケンちゃんに『つきあって下さい。生まれてからこんなすてきな人に出会ったことがありません。』って言われた。」
「そうなんだ。ほらね、さとみ、いつも自分はなんの取り柄も魅力もないしかわいくもない、って言ってるけど、わかったでしょ。わたし、ケンちゃんの気持ちはとってもよくわかるよ。ねえ、それで、なんて言って断ったの?」
「まだ答えてない。」
「え。なんで?」
「迷ってるから。」

言葉が続かなかった。

迷っている?

「・・・よくわからないよ、さとみ。何を迷っているの?」
「どっちとつきあうか。」
「・・・ねえ、さとみ、もう一回聞くよ。さとみはケンちゃんの申し出を断るか、それともつださんとつきあうのをやめてケンちゃんとつきあうか、それを迷っているの?迷っている、ということは、つださんとの関係をやめる可能性がある、って言うこと?」
「でも、つださんがかわいそうだし・・・」
「さとみ、そんなこと聞いてないよ!さとみの気持ちを聞いているんだよ!」
「だから、迷っているの。ねえ、つださん、怒ってるよね。あたりまえだよね。」
さとみは泣き出した。
「わかってるよ。ひどいとおもうよ。でも、自分で自分の気持ちがわからなくなってる。だって、断ったら二度とケンちゃんと会えないでしょ。わたし、ケンちゃんと会いたいよ。でも、それはいけないことだよね。どうしたらいいのか、わからないよ、ケンちゃんと別れたくないよ。」
「何を言っているの、さとみ。さとみ、何を言っているの?」


わたしは真っ暗闇の中にいる気がした。

その場で「ごめんなさい、つきあっている人がいます。」となぜ言わなかった。
どんなに楽しいからって、わたしとの関係よりそっちが大事なの?
4年後には絶対一緒になるからね、約束するよ、って言ったろ?
つださん以外の人を好きになるなんてあり得ない、って、断言しただろ?
可能性だとしたって、わたしと別れることを考える時点ですでに裏切りだろ!

さとみを責める言葉が次々頭に浮かんでぐるぐる回り続けた。

ふと、我に返った。

いま、わたし、すごく嫌な奴になりかけていた。
女を支配する男になりかけていた。

冷静になれ。
ちゃんと話をしろ。
さとみを支配するのじゃなく、さとみの気持ちを大事にしながら、さとみの心変わりを阻止する方法を見つけろ。

しかし、さとみは電話の向こうで声を上げて泣き続けていた。

「さとみ、明日は朝から出勤だよね。もう寝ないと。明日もう一度話をしよう。」
「・・・うん。つださん、ごめんなさい。」

電話を切って、わたしは暗闇の中に一人取り残された。

さとみはわたしのすべてだ、さとみがいなかったら生きる意味なんかない、さとみに喜んでもらうために部屋を掃除して、さとみと一緒に食べたいから料理を覚えた、さとみと生きたいから生きることにした、さとみは全部わかっているよね、わかっていながら、わたしと別れようか、って、考えているの?なぜそんなふうに思えるの?ケンちゃんをそれほど好きになったの?わたしに飽きたの?わたしのいやな面が見えてきて、でも、仕方なくわたしに合わせていたの?でも、わたしのいやな面って、何?

別れる、って決めたわけじゃない、落ち着け、これを乗り切れ。浮かれているだけですぐ冷める。
ときどきもう一人のわたしが事態を沈静化させようとする。

そして失敗する。わたしの混乱は増すばかりだった。頭がめちゃくちゃになっていく気がした。