ひとつだけやりのこしたこと
上書きについて 2009年02月14日 09時31分
さとみ。
朝目が覚めたときは、残念、って思ったよ。初めてのさとみからのモーニングコールで目が覚めたいと思って、目覚ましはかけなかったのに。
そして時計を見て、鳥肌が立った。
6:55
出会ってから、さとみが「朝がどうしても起きられないの。遅刻しそうで不安なの。」と言ったから、ずっとこの時刻にわたしがモーニングコールを続けたね。そして今日初めて、逆にさとみがわたしにモーニングコールをするために、目覚ましをセットした時刻。
6:55
さとみの目覚ましが鳴ったから、つださんが起きたの?
そして携帯が鳴った。いつもの寝ぼけ声。おはよう。自分で起きられたね、もう大丈夫だね。おめでとう。ありがとう。
さとみ。
昨日の午後、さとみはわけもなく落ち込んで泣きそうな気分だったよね。夜の電話で、二人で、なぜだろう、って考えて、2/14のせいだ、と思い当たったね。
一年前の今日、とつぜんたかしがいなくなった。電話から返ってきたのは、おまえが嫌いだった、30年、我慢してきたんだ、という信じられない言葉だった。さとみは二日の間、なにも食べることができなかった。なんで、なんで、なんで?
せめてバレンタインデーは避けて欲しかったよね、と私は言った。毎年この日に思い出すじゃない、前の日ならよかった、そしたら毎年、次の日にはつださんに愛を告白して彼のことを一日で忘れられるのに。ひどいよね。ひどい男だよね。
一緒になったら沖縄と北海道に連れて行って、と言ったね。いいよ、でも、なぜ?
わたしね、あまり旅行ってしたことないの。両方ともたかしが連れて行ってくれたところなの。つださんと行きたいの、同じ場所を歩いて、たかしを消したいの。
つださんは泣きそうになったよ。
さとみ。
今日から毎日、一年前の同じ日を思い出して、つらい毎日が始まるかもしれない。
とつぜんの吹雪のようにさとみを凍り付かせるフラッシュバックをつださんはとめることはできない、でもね、
毎日毎日、つださんは、同じその日を上書きしていくから。
両手いっぱいの愛で。
はじまりだね。今日から。二人で歩く新しい未来。上書きされた新しい現在。愛し合う悦びだけの。
【この日記に対する読者のコメントに対するさとみのコメント】2009年02月22日 14時24分
暖かいコメントありがとうございます。
しあわせになります。
つださんといっしょに。
ね、つださん!
作品名:ひとつだけやりのこしたこと 作家名:つだみつぐ