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タマ与太郎
タマ与太郎
novelistID. 38084
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たった一人の愛読者

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 僕のペンネームは、江羅里九陰(えらりくいん)。大好きな推理小説作家のエラリー・クイーンをもじったものだ。少し長いので、自己紹介には江羅里と呼んで下さいと付け加えた。僕は自作を投稿した後、他の投稿者のページを訪問してみた。いろいろな人が文章を書いている。作品の種類とか出来よりも、世の中には文章を書くことが好きな人がこんなにもたくさんいることに驚いた。
 投稿した翌日、早速反応があった。
「江羅里さん 足跡ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。 唐変木」
 他の投稿者のページに訪問すると、どうやら“足跡”なるものが記録されるようだ。唐変木というのはこの人のペンネームだろう。確かに昨日、そんな名前の投稿者のページに訪問した記憶がある。こちらこそ宜しくお願いします、と僕は返事を書いた。
 その次の日になると、僕の作品のページにコメントが寄せられた。
「作品読ませていただきました。とても面白かったです。 花咲乙女」
 こんなコメントもあった。
「ちょっと切ないお話でした。次回作をお待ちしています。 緑野そよ風」
 その後もこの手のコメントがいくつか寄せられた。反応があるというのは悪い気はしない。ただ、僕はなんとなく消化不良の状態だった。「今後ともよろしく」とか「面白かった」とか「次回作を待ってます」とか、薄っぺらい言葉ばかりじゃないか。極端な話、読まなくたって書けるコメントだ。文章を書くことが好きな人間なら、もう少し気の利いたことを書けないものか。
 僕は、薄っぺらな言葉には薄っぺらな言葉でコメントを返した。それでも反応があるだけまだましだ。2作目、3作目の作品も投稿し、ほかの投稿者の作品もいくつか読ませてもらった。
 相変わらず味気のないコメントばかり寄せられ、半月も経たないうちに、僕は「もの書きドットコム」に退屈感を覚えるようになった。大きな期待感も感じずに、僕は4作目の短編を投稿しようと「もの書きドットコム」にログインした。すると投稿済みの3作品全てに新しいコメントが寄せられていた。
「江羅里さんの作品には素敵な余韻がありました」
「静かだけど熱い語り口に引き込まれました」
「9ページの7行目の表現が大好きです」
 今までにはないコメントだった。文体からして女性であろうと想像できた。僕の胸は初めてラブレターを貰った時のようにドキドキと鳴った。
 それらのコメントを書いた人のペンネームは「夢見るすもも」さんといった。

作品名:たった一人の愛読者 作家名:タマ与太郎