たった一人の愛読者
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小さなときから作文は得意じゃなかった。得意じゃないというよりは、むしろ文章を書くことが嫌いな方だった。そんな僕が数年前から短い小説を書くようになったのは、突然変異以外のなにものでもない。なぜ小説書くようになったのか、自分でも全く理解できない。でも実際書いているのだ。それは紛れもない事実だった。
僕が書く小説は、せいぜい5,000字から6,000字の短編小説。テーマは恋愛だったり、サラリーマンの悲哀物語だったり、学園ものだったり、これと言って特徴もなく、斬新さもなく、誰でも書けそうな亜流の物語だ。
そんな僕でも、書き続けていくうちに、駄作が5、6作品溜まってきた。ご多分に漏れず、誰かに読んでもらいたくなるのは自然の成り行きだ。そんな思いを燻らせながら、インターネットを見ていた僕は、ある日こんな広告を目した。
“あなたの作品を投稿してみませんか?”
それは、素人のもの書きが、自分の作品をそのサイトに投稿し、他の会員がそれを読んで、ああでもない、こうでもない、と感想を述べたりしているサイトだ。
「もの書きドットコム」というそのサイトは、どうやらこの手のサイトの中では、結構な規模のようだ。僕は投稿されている作品をいくつか読んでみた。ところがどれもこれもピンと来ない。自分が亜流だと思っていたが、ここには自分以上の亜流がたくさんいた。もしかしたら自分の能力に合っているかもしれない。
とりあえず僕は「もの書きドットコム」に登録することにした。自分の作品がどんな反応を示すのか、力試しの意味もあった。簡単な自己紹介を書くだけで、登録は思いのほか簡単にできた。
もちろん、小説家になる気はない。なれる才能があるとも思っていない。芥川賞や直木賞の受賞作家の作品を読むたびに、打ちのめされてきた。その文章力、巧みなプロット、地道な取材力には、とてもではないが太刀打ちできない。
「まあいいさ、軽い気持ちでやってみるか」
僕は書き溜めた作品のうち、一番の自信作を投稿することにした。ワープロソフトに書いた作品を、サイトの投稿欄にコピーペーストした。「投稿する」というボタンを押すと、あっという間に僕の恋愛小説がサイト上に公開された。