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赤いポルシェの女・・三人同時初体験

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 女は、自分のオーラにしどろもどろな彼らを可愛いと思った。
「君たち、志望校に合格したって、オメデトウ!」
 電話で対応したAが応えた。
「僕らは、三人とも難関大学に合格しました。夏までは絶対無理だと言われてたんですが、お姉さんに出会って、死にもの狂いで勉強したんです。お姉さんのおかげで頑張れたんです。アリガトウございました。」
 光栄だわと女は喜んだ。
「今日は私の合格祝いよ。約束どおりドライブして、フフッ、オトコにしてあげる。」
オトコにしてあげる!一度チャラになった言葉である。彼らは自分の耳を疑った。
「ほ、本当ですか?!」
「オ・タ・ノ・シ・ミ!」女は勿体ぶった。
 タオル一枚で通り過ぎる女の悩ましいスローモーションと、女の赤で統一された見事なプロポーションが錯綜した。女は、赤い濡れた唇と言い、セーターで強調された乳房と言い、あの時以上に妖艶である。もしかして本気かも・・いやいや、そんな夢みたいな話があるはずない。しかし、彼女は何を考えているのだろう、これから何が起こるのか。彼らは緊張と期待で黙り込んだ。
 ポルシェは混雑する市街地を抜けると、山越えのドライブウェイに入った。カーブの多い急坂だったが、そこはポルシェ911のターボエンジン、快適なエンジン音で易々と上っていった。早春の曇り空の下、のどかな田園に鉄道が走り、くすんだ色の市街地が現れた。M温泉よと女が呟き、彼らはどこかで聞いたことがあると思った。
 車は温泉町の一角、ケバケバしい看板の乱立するホテル街に入っていった。『大奧』、『ハーレム』、『男性専科』、『ビーナス』、『吉原』、『ピーチ』、派手なネオンが点滅している。経験したことのない妖しい雰囲気である。女は車を寄せると命令口調で言った。
「君たち、降りて!」
 言われるまま車を降りると、女は窓越しにお札を渡した。
「ハイ、コレ!私の合格祝いよ。これでオトコにしてもらうのよ。ホラ、あそこのお兄さんに綺麗なお姉さんを紹介してもらうといいわ。」
 呆然とする彼らに時計を示した。
「一時間半後、ここに来るわ。じゃね。バイバイ~」
 赤いポルシェはダッダダ~、轟音を立ててホテル街を走り去った。

 事情の飲み込めない彼らはキョロキョロ辺りを見回した。
 白昼のホテル街は人影もまばらで、「ようこそM温泉へ」の歓迎幟が風もなく垂れている。リヤカーに野菜を積んだ農婦が商いをしている。昼間から営業している店もあるらしく、呼び込みの蝶ネクタイが揉み手をしながら近づいてきた。
「兄ちゃん、エエ子いまっせ、昼間やからサービスしまっせ、どうでっか?」
 突然、Sが素っ頓狂な声をあげた。
「M温泉ってソープランドやで!」
 蝶ネクタイがあきれた。
「兄ちゃんら、初めてやな。三人で筆おろしでんな。団体割引しまっせ、三本でどうでっか?」
 一人三万円と言うことだろうか。どうしようかと迷っていると、すぐに指を二本にした。
「昼間割引と団体割引で大サービス!二本でどうでっか?」それでも決めかねていると指を一本にした。
「兄ちゃんは学生さんやな。ほんなら、学割で一本半!どうでっか?」
 そこへママチャリの金髪女が突っ込んできた。急ブレーキで転びそうになった女が喚いた。髪がほつれ、肌が荒れ、目がすわっている。
「ダボ!お前ら、ワシが見えんのか!道の真ん中で話すな!ワシの商売道具が傷んだらどうしてくれるんじゃ!」
 女は下腹をポンポンと叩いた。蝶ネクタイは「お姉さん、スンマセン」と平謝りであった。それを見て、彼らの腹は決まった。
「あんな女に筆おろしされたくない!」
 しかし、女との待ち合わせまで時間があった。彼らはSの発案でソープ街を探訪することになった。白日の歓楽街は厚化粧を落とした商売女のようで、疲れてものぐさで取りつくシマもない。ケバケバしい看板にカラスが止まり、汚れた路地裏を猫がうろつく。昼間オープンの店からコソコソ普段着の親父や背広姿のサラリーマンが出入りする。金髪スッピン商売女が高いヒールで怠そうに出勤していく。
 遠くで雷鳴が轟いていたが、突然上空が暗くなり大粒の雨がポツポツ降り出した。雨だ!彼らは慌てて喫茶店に飛び込んだ。そこは英国パブ風の造りで、カラオケ、ゲーム機、ダーツなど遊び道具満載であった。商売女や客が時間潰しに使うのであろう。
 彼らはコーラを注文すると早速ゲーム機に熱中した。
 約束の時間が近づいても、驟雨はおさまりそうにない。彼らは意を決して篠突く雨の中に飛び出した。身体を屈め顔を突き出し全力で走り出したのである。
 車のなかで、女は雨を蹴散らせポルシェ目がけて走ってくる三人を見ていた。低く飛ぶように走る姿は、ご主人目がけて疾駆するシェパードである。地面を蹴る足、しなやかな脚力、締まった身体を雨が叩く。女は疾駆する若い彼らを頼もしく思った。
 彼らは車中になだれ込んだ。激しい息づかい、濡れた身体、車内の温度が一気に上昇した。女は冷やかすように尋ねた。
「その勢いで、お姉さんにしゃぶりついたんでしょう。」
 三人が顔を見合わせ、Sが申し訳なさそうに言った。 
「それが、商売女に怒鳴られてやる気なくしたんです。スミマセン。」
 助手席のKが顛末を報告し、預かったお札を返した。
「そう・・残念だったわね。」
 女は腕組してしばらく考えていた。
「最初が商売女じゃ・・君たちが可哀相だしね。」
 何かを決心したように、女はエンジンをかけた。ダッダダ~エンジン音が雨音にくぐもる。女はワイパーの回転を上げ、車は水煙をあげて走った。彼らは負け犬のように黙り込んだ。女が元気づけるように言った。
「この近くにパパの別荘があるの、そこでパーと残念会しようか。」
 消沈していた彼らのテンションがあがった。口々に叫んだ。
「別荘あるんだ、スゲエー!」、「残念会、サイコー!」「お姉さん、大好き!」
 車内は修学旅行バスと化し、彼らははやり歌を熱唱したのである。



 山麓の別荘地に着いたとき、驟雨をもたらした黒雲は通り過ぎていた。
 別荘地は広大な雑木林を切り開いたもので、落葉したケヤキやクヌギのなかに和洋様々な別荘が配されている。彼らの町にこんなお洒落な別荘地はなかった。そもそも別荘を持っている者がいなかった。軽井沢見学気分で眺めていると、ポルシェは瀟(しよう)洒(しや)な別荘に横付けした。車を降りると女は大きく息を吸った。
「やっぱり、空気が美味しいわ。」
 雨水を吸い込んだ落ち葉の大地は柔らかく、木々の枝からも、別荘の屋根からも、銀色の滴がポタポタ落ちていた。木立を抜ける風はヒンヤリ冷たく、クヌギの甘い香りがする。女は玄関を開けると彼らを招いた。
「ここはパパの会社の保養所を兼ねているの。」
 一階は吹き抜けの暖炉付き大リビングで、キッチン、洗面、浴槽、トイレが配置され、二階の屋根裏に客用ルームが設けられている。女は暖炉のガスをつけ浴槽に湯を入れた。
「君たちの服を乾かすから、お風呂に入って。」