CHARLIE'S 23
第3章・コットンクラブ
ハーレムに有名な高級ナイトクラブがある。
その名もコットンクラブ。
客は全て白人で、スタッフと演奏者は全て黒人という、白人の為の娯楽施設。
人種差別の最中ならではのクラブだが、それは表の顔で、裏では密造酒の販売所。また、闇取引の場所として金が集まる機能が凝縮された秘密基地でもあった。
そもそも、オーナーは獄中にいる地元ギャングのオウニー・マドゥンだ。素晴らしいエンターテイメントは格好の隠れ蓑だったのだろう。
だが、結果的には多くの素晴らしいアーティストを輩出する事となった。
デューク・エリントン・バンド。サッチモことルイ・アームストロングと、後世に輝かしい名を残しているアーティストも多い。
デュークはコットンクラブの看板的アーティストで、毎夜、ステージに上がっていた。
夕方にはクラブに入る。そして、バンドの連中と、その夜に演奏する楽曲の打ち合わせをするのが日課だった。
楽屋のさらに奥に倉庫がある。そこに、ビーグル犬のチャーリーJr.が家族で棲んでいた。
二年ほど前から、ハーレムを彷徨っていたチャーリーJr.親子をデュークが世話しているのだ。と言っても、実際に世話をするのはデュークの弟子達で、デュークは時々立ち寄る程度だった。
デュークが優しい笑顔で倉庫に顔を出した。
「ハーイ!チャーリーJr.、それにラムとルイス。調子はどうだい?」
チャーリーJr.は軽く尻尾を振って応えた。ルイスとラムがそれに従う。
「そうか、OKだな。・・・最近、このニューヨークにノラが増えちまってな・・・元々は飼われていたんだろうけど・・・可哀相に、この不景気で捨てられたんだろうなぁ・・・表は保健所の車がうろついているからな・・・気をつけるんだぞ。・・・ったく・・・人間は身勝手な生き物で困ったものだよ。いいか、チャーリーJr.ラム、ルイス。青い車には気をつけろよ。保健所の青い車だ。捕まったら最期だぞ・・・いいか?・・・OK?・・・グッド!」
デュークはポケットから干し肉を出して放り投げた。一つ・・・二つ・・・三つ。
ちゃんと家族分を用意していた。
「ワンッ」
「いいって事よ。お前らは俺の家族だ」
デュークは、その黒くて大きな手でチャーリーJr.、ルイス、ラムとスキンシップを図ると、楽譜を小脇に抱えて出て行った。
大きな背中がスゥイングしている。
作品名:CHARLIE'S 23 作家名:つゆかわはじめ