CHARLIE'S 23
ステージのデュークは満面の笑顔で軽く手揉みをした。
デュークのファーストネームはエドワードと言う。しかし、幼い頃からその身だしなみ、そして立ち振る舞いが優雅であった事から、友人が付けたニックネームが「デューク=公爵」だ。その名に恥じない風格を備えていた。
「さぁ・・・麗しき淑女の皆様。今日はお越し頂き、ありがとうございました。このデュークの新曲。未だ、誰も聞いていない新しい音・・・今日は特別にお届けします・・・リナ・ノババ。貴方は僕の太陽。アイリス・ジョーンズ・・・君は僕の月。そして、AJ・・・君は僕の魂の故郷・・・Take The A−Train・・・・ワン・ツー・ワンツー・・・」
かくして永遠の名曲が披露された。
チャーリーJr.は奇妙な事に気がついた。
スゥイングしているリナとアイリス。その後ろにいるAJだけがリズムがおかしい。
チャーリーJr.は気づかれないように、肉球歩行でAJに近づいた。
だが、シーズに気づかれた。
シーズはビックリした様な表情で、再びソッポを向いた。また、誤解されてしまったようだ。
AJが何やら呟いている。
チャーリーJr.は大きな耳を捲り上げるようにして、耳を傾けた。
「ラダ・・・ラダ・・・ダンバラ・・・オグンがやって来るぞえ〜〜火の神が〜〜焼き尽くしにやって来るぞえ〜〜ラダ、ラダ・・・守りたまえ〜ダンバラ〜〜守るのじゃ〜〜エジリ・フレーダ・・・おお〜、エジリ・フレーダ貴女も降りてこられましたか〜〜ラダ、ラダ・・・」
「神懸り」・・・・ブードゥーの真髄。
霊媒師AJはデュークのA-トレインに乗ってしまったようだった。
デュークの新曲「A列車で行こう=Take The A-Train」は最高の出来だった。
因みにA列車とは、ニューヨーク地下鉄のブルックリン東地区からハーレムを経てマンハッタン北部を結ぶ8番街急行の事だが、デュークがこの曲に込めた想いは「ジャズを楽しむならA列車でハーレムに行こう」という事だったのだろう。
また、この曲は以降、彼のバンドのテーマ曲にもなった。
曲が終わると同時に霊媒師AJの呟きは止んだ。
焦点が合わなかった両目は真っ直ぐにデュークを見つめ、思い出したかのように拍手をしている。
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そして、その手で、ウィスキーを一気に飲み乾した。
飲み干して、目を回した。咄嗟にチュチが駆け寄ってAJを支えた。デュークが慌ててステージから降りてきた。
「ホーホー・・・AJ、大丈夫かい?・・・酒に弱い君が一気飲みは不味いよ」
「ふぅ・・・ごめんなさい・・・トランスよ。神が・・・ラダが降りてきたわ・・・小さな命を救わないと・・・ああ、デューク、貴方の新曲はミリオンセラー間違い無いわ。最高よ・・・ああ、どうしよう・・・小さな命が・・・このままではいけないわ・・・」
「AJ・・・一体どうしたと言うんだ?何が見えた?・・・話してごらん」
「ああ・・・デューク・・・こんな怖いトランスは初めてよ・・・ラダ・・・ダンバラ・・・オグン・・・それに、エジリ・フレーダまで降りてきたの・・・怖いわ・・・私、怖いの」
「AJ・・・何が怖いの?」
「分からない・・・分からないの・・・ただ、このままでは駄目だという事・・・命・・・大事な、大事な命・・・・奪ってはいけないわ・・・」
「AJ・・・ひょっとして、今、ニューヨークで起きている事かい?」
「そうかもしれない・・・気をつけるのよ・・・デューク・・・気をつけるの」
既に、チャーリーJr.達の姿は無かった。
チャーリーJr.はダウンタウンへ向かい疾風の如く地を駆けていた。チャーリーJr.に並行して小麦色の弾丸が走る。ニューヨーク一の俊足ランナー・・・ハチベェが一緒だった。
作品名:CHARLIE'S 23 作家名:つゆかわはじめ